白い菫が紫色に染まる時
白いマフラーを羽織ると、少しだけましになった。

「あのさ・・・」
「ん?」
「菫の旦那に会ったぞ」
「え、何で?いつ?」

蓮くんと白澄が繋がるような出来事があっただろうか。
私の知らないところでなぜ。

「四年前だったかな。俺が菫に送ったハガキを持って、俺の家に訪ねてきた。多分、ハガキにあった住所を宛にして来たんだと思う」

あのハガキ。一時期、失くしたと思っていたけれど、蓮くんが持っていたのか。

「それで、蓮くんは何て?」
「菫の夫です。ってまず自己紹介されて、それで菫の実家がどこにあるのか教えてほしいって」

だからか。彼が知るはずのない私の実家を訪ねることができた理由は。

「でも、旦那なのに菫の実家の場所知らないなんておかしいだろ。わざわざ、俺のところ訪ねなくても、菫に聞けばいいのに」
「それで、俺はめちゃくちゃ疑ったから、向こうは信じさせようと菫との写真とか見せてきたんだけど、それでも旦那であることの証拠を見せられても、納得できなくて。こいつから暴力受けて、菫は実家に逃げてるんじゃないかとか・・・・、ストーカーなんじゃないかとか」  
       
普通のペースで歩くと、そろそろ私の実家に着いてしまうので、二人とも歩くペースを落とした。
まだ、ここで別れるわけにはいかない。

「それで、菫に実家の場所を聞けない理由を教えてもらった。言い換えると、菫がここに帰ってきたくない理由」

正面を見ながら歩いていた彼が、私に視線を合わせて立ち止まった。
いや、立ち止まったのは私の方だった。
立ち止まった私に合わせて彼も立ち止まったのだ。

「聞いたの・・・・?」
「うん。でも、旦那のことは責めないでやってくれ。俺が信用できないから菫に連絡を取るとか言い出したから、そうするしかなかったんだと思う」

別に蓮くんを責める気はない。彼は何も悪くない。
でも、白澄に知られたことに、知られてしまったという事実に動揺していた。 
 
「俺、ずっと一緒にいたのに気づけなかったのかって・・・。ショックだった。ずっと、一番近くで見てたつもりだったんだけどな。しかも、菫の考えてることなら、何でもわかるようなつもりでいたのに」

彼の瞳は揺れている。
そんな弱気な瞳を見て、私はお汁粉を持ってない方の手で白いマフラーを握りしめた。

「そんなこと、思う必要ないよ。私だって誰にも気づかれないようにしてたし」
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