白い菫が紫色に染まる時
私以上に私のことを理解しているのではないかと怖くなるほどに、彼は私の進むべき道を開いてくれる。
それに、どれほど救われてきたか。
本当の意味で解放されたいなら、覚悟を決めなければならないのかもしれない。

「わかった・・・。帰ってみる。私が私として生きていくために、帰る。蓮くんとずっと暖かい場所で生きていきたいから・・・・、向き合ってくる」

正直、怖い。あの土地に足を踏み入れるのは。
でも、行かないと。行かないといけないのだ。覚悟を決めた。
蓮くんは一緒に行こうか?と言ってくれたが、断った。
そこまで甘えるわけにはいかない。せめて自分の問題は自分で解決しないと。
一人で行かないと意味がないような気がしたのだ。
毎年恒例のハワイ旅行を今年はキャンセルして、年が明けた一月に私はあの場所へ旅立った。

飛行機に乗って、着陸の準備のアナウンスが流れた時、私は窓から下の方を覗いた。広い大地が見える。
こうやって上からこの大地を見下ろしたのは、あの日以来だ。
あの時はこうやって戻ってくるなんて夢にも思わなかった。

飛行機が無事、札幌に着陸し、私はすぐに電車を乗り継ぎ、あの場所へ向かった。
そうは言っても、ド田舎の町だ。札幌から何時間もかかった。
私は電車に揺られている間、ずっと緊張していた。
体がそして、心が震えていた。

そんな息苦しい時間を過ごして、ようやく私は目的地の駅に到着した。
本当に帰ってきたんだ・・・・。
私は、昔よく使っていた古びた駅に降りて、改めて実感した。
私は巻いていた紫のマフラーに顔をうずめて歩き出した。

雪が積もっている道を転ばないように一歩一歩慎重に歩く。
もう、十年も経っているのに、駅から家までの道のりを体が覚えている。
歩いて二十分ほど経ったところに、私が暮らしていた家があった。
少し、昔よりガタが来ている気がする。このドアをノックすれば、母親がいる。
何と言われるだろうか。
いや、何を言われても受け止める覚悟をしてきたではないか。
いまさら、怖がってどうする。と自分を奮い立たせる。私は帰ると決めたのだ。

覚悟を決めて、ドアをノックした。

「は~い」

声が聞こえた。母親の声。足音が近づいてくる。
ドアがガラッと音をたてて、開いた。
私は目の前にいる母親を見つめた。
< 99 / 108 >

この作品をシェア

pagetop