浅蘇芳─asakisuo─
一方、森高君は同じ素振りをせずこっちを見ていて、首を傾げると笑顔で右手を手を振られた。
「ん、またな。バイト気を付けて行くんよ」
さっきまで繋いでいた彼の大きな掌を少しだけ意識して、私は一足先に部屋に入る。ガチャン。扉が閉まると静寂に包まれたいつも一人の空間に戻り、ポテポテ歩くと白いカーペットに座り込んだ。
学園祭で森高君と会って、似顔絵を描いてもらって、クレープを食べて、一緒に乗ったエレベーターに閉じ込められた。二度と触れぬ森高君と手を繋いで、気まずく申し訳なく不安が和らいで、今一人でここにいる。
左手をグーパー動かしながら暫く眺めていたが、最後にギューッと力を入れると、私はバイトへ行く準備を始めた。