血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?
……真白恭也くん。
朝の柔らかな日差しに照らされて、雪のように白い髪はキラキラと輝いていた。
腰まである長いその絹糸は、後ろでゆるく三つ編みにされている。
頬にかかる髪がさらりと風に揺れた姿は、絵画のようだ。
「……郁人か」
「不機嫌そうな顔をしないでくれる? きみの手助けに来たって言うのに」
「手助けだと?」
本を閉じて、きゅっと眉を寄せながら真白くんは立ち上がった。
「そこの女は誰だ。この場所を勝手に教えたのか?」
「僕の花嫁さんを『そこの女』呼ばわりは、いただけないなぁ」
「花嫁? ……お前、まさか血を飲んだな」
目を見張る真白くん。
八雲くんは心底愉快だと言わんばかりの笑みを浮かべて、私の肩を抱く。
「もちろん。ほら、ここ……ちゃんと僕の紋章があるだろう?」
長く綺麗な指が、私の制服の襟を少し開き首筋をあらわにして撫で上げる。
「えっ、紋章ってなんですか!?」
「おや、風花ちゃん知らなかった? 吸血鬼はパートナーに、自分のものだって言う証として紋章を刻むんだ」
「初耳です!!」
昨日お風呂に入った時は考え事をしていたから、まったく気が付かなかった!
「大丈夫、僕の紋章は綺麗だから。後で鏡で見てごらん、きっと気にいると思うよ」
「そう言う問題じゃなくて!」
「──痴話喧嘩はもういいか」
私達の言い合いを聞きかねたのか、真白くんが口を挟む。
でも、痴話喧嘩で断じてない。
「ねぇ恭也、僕は尻に敷かれるタイプかな?」
「お前が? 馬鹿言え。お前は、自分の女が他の男の目に触れるくらいなら、一生閉じ込めておくタイプだろう」
真白くんが言ったことを否定する訳でもなく、笑みを深める八雲くんにゾワリと肌が粟立つ。
もしかしなくても、卒業と同時にどこかに閉じ込められる未来が……?
と考えたところで、悪い妄想を打ち消すように頭を振る。
そうなった場合は逃げよう。
卒業と同時に、八雲くんに見つからないような場所へ……。