血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?
「風花ちゃん、いま何を考えてたの?」
「イエ、ナニモ」
「そう? ふふっ、可愛いね風花ちゃん」
きっと八雲くんは、私が考えた事を全部わかった上で言っている。
怖い、この吸血鬼怖い!
隣の吸血鬼から視線をそらせば、真白くんと目があった。
八雲くんの血のような赤い瞳とは違い、藤の花みたいに綺麗な藤色をしている。
「ここへ、何しに来た」
その言葉きっと、私に言っている。
「……私のパートナーになってほしいんです」
「条件は」
「え?」
「だから、条件次第ではパートナーになっても良い」
断られるんじゃないかと思っていたため、あまりのはやさに面食らう。
「えっと、条件は『私の血を対価としない』だけです」
「……そうか」
真白くんは顎に手をやり、考える。
そんな仕草でさえ美しい。
「本当に、きみの血を飲まなくていいんだな?」
「もちろんです」
「ならその条件で、きみとパートナーを結ぼう。こちらも、願ったりな条件だしな」
「恭也を狙ってる女の子や男の子は、みんな血を飲まれたがってるもんね」
「それはお前もだろう、郁人」
軽口が言い合える二人は、本当に仲が良いんだろう。
肩をすくめた八雲くんは、私から離れて教室の入り口に向かった。
「じゃあ僕は、パートナー申請用の紙をもらってくるよ」
「ええっ、そんな! 待ってください、八雲く──」
ここに私を置いていくつもりですか!?
……必死の静止も虚しく、八雲くんは教室を出て行った。
伸ばした手は行き場をなくし、弱々しく体の横に戻ってくる。
「…………」
「…………」
耳が痛くなるほどの静寂。
気まずいなんて言葉じゃ表せないほど、落ち着かない。
今ならまだ、八雲くんを追いかければ間に合うかもしれない。
よし、ここから逃げられるならなんだってする!