血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?

 結構です! と断るより先に、視界いっぱいに広がる純白を見て諦めを悟った。

 昨日、八雲くんが牙を立てた側とは反対の首筋を、生暖かいソレが舐めるのは意味があるのか。

 そんな所、舐めたって美味しくはないのに。
 

 ぷつり、と薄い皮膚を鋭い牙が突き破った。
 八雲くんよりも深く、牙が入り込んできたように感じる。


 深く、深く、このまま食べられてしまうのではと思うほど。


「うっ……ん」


 頭がぼうっとしてきた。
 これまた八雲といい、真白くんといい、どうして過剰に『甘い毒』を私に流し込むのか!

 もしかしたら「二人の毒が普通の吸血鬼より強いのでは?」という説が浮上した。

 でもそれを調べる事はできない。
 
 吸血されるのだって昨日が初めてだったのに、強い快楽に慣らされ続けるなんて……これが普通とか、嫌なんですが!?


 そう思いつつ、ぼんやりと、あぁ今吸われている所にも真白くんの、紋章と言うものが刻まれるのだろうかと考える。


 足に力が入らなくなってきて、もう無理……と思った時。
 真白くんは牙を抜き、傷口をぺろりと最後に舐めて顔を上げた。

 私の後ろを見ている気がする。


「お前は、覗きが趣味なのか? 郁人」


 郁人って……、八雲くん!?
 慌てて真白くんから離れながら、後ろを向く。
 入り口で壁に背を預け、腕を組んでいる八雲くんがいた。


「んなわけないでしょ? 僕は覗くより、風花ちゃんとの密な時間を覗かれる方がいい」

「いやです! てか、密な時間ってなんですか!」

「風花ちゃんが冷たい」

「愛想をつかされているんじゃないか」


 ふっと笑った真白くんに、ぎろりと視線を投げた八雲くん。
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