血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?
「きみが中学生くらいの時かな。自我を無くした吸血鬼に、襲われそうになった所を助けた時さ」
「そんな……あの日、助けてくれたのは……学園長先生なんですか?」
「あぁ、そうだよ」
中学一年生の時、自我を失っている吸血鬼に襲われそうになって初めて、吸血鬼の存在を知った。
私を助けてくれた人は、私に稀血や『純潔』の血を教えてくれた。
でも、襲われた恐怖から記憶が曖昧で。
助けてくれた人の、顔を覚えていなかったのだ。
入学式で学園長先生を見た時でも、とくにピンと来なかったのに。
「純潔の血を調べていたら、辻村ちゃんに行きついてね。三年前会いに行ったら、襲われそうになってたから驚いたよ」
肩をすくめた学園長先生は、「だが……」と言葉を続けた。
「この子は、朱華学園に入学させて守らなければと思った。でも少々、強引だった事は謝ろう」
「いえ、むしろ私は、あなたに感謝しないといけないです……」
「ははっ。でもちょっとした打算もあってね。郁人がパートナーになると思っていたんだ。まぁ、真白くんもいるのは誤算だが、もちろんパートナーは多い方がいいよ。君は狙われやすいからね」
狙われやすい理由は、やはり純潔の血のせいだろう。
「この学園にいる間は、私の保護下にあるから大丈夫だろうけど、卒業したら二人に守ってもらいなさい」
「あの、それってやっぱり……」
「ははっ、生涯のパートナーを見つけちゃったね」
声が弾んでいる学園長先生。
「嬉しそうに言うことじゃないです!」
「学園でのパートナーと、そのまま結婚する生徒も少なくない。複数の夫や妻を持つ稀血は普通だよ。最上級の純潔ともなれば、二人でも少ないくらいだ」
私も立候補しようかな、と言った学園長先生は、八雲くんと真白くんに睨まれていた。
「冗談に決まっているだろう? 私には愛する妻がいるからね。いやぁ、若いって良いね」
ははっと笑う学園長先生。
まだ話を聞きたかったけれど、不機嫌な八雲くんと真白くんに促されて、私は学園長室をあとにした。
「私の可愛い生徒たち。良い学園生活を送りなさい」
私は、学園長先生はいい人なのだと思う。
……ただの勘でしかないけどね。