血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?
◆◆◆◆◆


 広い中庭を抜けて、教室へと向かう。

 昼休みという事もあり、お弁当を食べている生徒や、食べ終わった人達はパートナーや友達と雑談したりしている。

 ちなみに、稀血を持つ人間に、性別は関係ない。男子生徒同士が、パートナーを結んでいる場合もある。逆も然りだ。
 

 普通の学校じゃないから、あまり厳密なルールはなく、昼休みも他の学校と比べて長めにとられている。

 いつもなら暇を持て余す昼休みも、お昼をまだ食べていない私からしたら、今日ばかりはありがたかった。
 とにかく、はやく教室に戻ってお昼ご飯を食べたい。それから、パートナーをどう見つけるか考えればいい。


 歩くスピードをはやめた所で、突然、悲鳴が聞こえてびくりと肩が跳ねる。
 その反動でズレた、分厚いレンズの眼鏡をかけ直しつつ、私は何事かと声がした方を向く。
 

「キャー! 郁人(いくと)様っ、こっち向いてー!」
「今あたしと目が合ったわ!」
「違うわよ、私よ!」
「はぁ!? あたしよっ!」


 そこは、数十人の生徒達が壁を作っていた。中心には、一人の男子生徒がいる。


「(八雲(やくも)郁人……)」

 
 艶やかな黒髪に、切長の瞳は長い睫毛に縁取られていて色気を含んでいた。

 容姿端麗な彼は、入学当初から生徒達の注目の的だ。
 身体能力もずば抜けて高く、今年入学したにもかかわらず、学園で一番強いと言われている。
 

 八雲くんは『吸血鬼』だから、私からしたら近寄りたくはない存在だけども。


 ……たしか、八雲くんもまだパートナーを決めてなかったはず。
 八雲くんのパートナーは誰なのかで、ここ数日は学園中がその話題で持ちきりだ。


 まさか、ちっぽけな女子生徒Aも同じ課題を抱えているなんて、誰がしっているのか。


「……いやいや、ないない! 八雲くんが、私のパートナーになってくれる訳がないよね」


 大きなため息をついて、教室に戻ろうとした時、八雲くんと目が合った。

 ……気がした。


「(まさかね。気のせい、気のせい)」


 今度こそ、私は足早に教室へ向かった。
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