血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?
◆◆◆◆◆


 ……んだけど。


「(どうして、私は保健室のベッドで八雲くんに組み敷かれているの!?)」


 私は絶賛、大パニック中だった。

 待って、落ち着いて私。
 中庭で八雲くんを見かけてから、ここに至るまでに何があったのかを頭の中で思い返す。


 校舎の一階の廊下を歩き、三階に行くために保健室横にある階段を上がろうとした所までは覚えている。
 そして……突然腕を掴まれて、気づけば保健室のベッドで八雲くんに組み敷かれていた。


 ──いや何度思い返しても、やっぱり訳がわからない。


 さらり、と艶やかな黒髪が上から頬をくすぐる。身じろぎすれば、(とが)めるようにさらに拘束を強くされて下手に動けない。


「あ、あの……退いてくれませんか」

「ふふっ、退いて欲しい?」


 だから、そう言ったんですが!
 と言いたいのを、どうにか理性で我慢する。


「わ、私なんかに構うより、八雲くんの周りには可愛い子達がたくさんいるでしょう」

「おや、卑屈だね?」

「……そんな事はないです。だから、はやく退いてください!」


 八雲くんは、ギャンと抗議する私を目細めて観察する。
 その瞳は、全てを見透かされているような気持ちになって、なんだか落ち着かない。


「……きみさ、パートナーいないんでしょ?」

「な、なんでそれをっ?」

「僕もパートナーがいないから、同じように退学寸前の生徒くらい知っているよ。──辻村風花ちゃん?」

「っ!」


 だからね……、と八雲くんは顔を近づけてくる。吐息がかかるほどの距離に、思わず唾をのみこんだ。


「きみに近づいた理由は、ただ一つ。僕のパートナーになってほしいんだ」

「え……?」
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