青春の坂道で
趣味だって違うだろうし、興味も違うだろう。 そう思えば思うほど彼女に興味が湧いてくる。
彼女のことをもっと知りたいと思ってくる。 ダメだ、今はダメだ。
自分にそう言い聞かせながら別の話題を探そうとするのだが、、、。
 夜中の銭湯から帰ってきて何気に部屋のドアを開ける。 何も無いはずなのに空気が暖かく感じる。
何かが住み着いているわけでもないし、もちろん幽霊様がいらっしゃるわけでもない。
実は俺の心がそうさせていることに俺はまだまだ気付かなかった。

 翌日は昼過ぎまで寝入ってしまっていた。 余程に疲れていたのかな?
(やっちまったお。 午前中は読書の時間だって決めてるのに、、、。)
ゴソゴソと冬眠から目を覚ました熊みたいに布団から這い出すと炊飯器を開けてみる。 「おーおー、まだまだ残ってるなあ。」
その残り飯を丼に放り込むとお茶漬けにしてガツガツと胃袋に放り込む。
「食った食った。 余はこれで満足じゃあ。」 そう言いながら窓を開ける。
真昼の眩しすぎる太陽が頭の上からこれでもかと照り付けてくる。 「ちょいと散歩をしてこようか。」
一階に下りていくとおばさんが怪訝そうな顔で俺を見詰めていた。
そんなのには目もくれず下駄箱からスニーカーを取り出すと軽く口笛を吹きながら外へ出て行く。
「気持ちがいいもんだなあ。 頭は痛いけど、、、。」
だってさあ、お客さんに勧められた日本酒が美味くて、三杯も飲んじゃったからさあ、、、。
それでもまだまだ二日酔いにはなってないから大丈夫だよ。 父さんみたいに俺も強いのかなあ?
コンビニが見えてきた。 看板に旗が絡んでいる。
駐車場には何台か車が止っていて昼休みらしい男たちが眠っている。
 (あの子は居るかな?) あの古本屋の戸を開けてみる。
薄暗い店内には今日も大学生が数人、餌を狙う鯉みたいな目で本を探している。
「経済学の本無いなあ。」 「こっちのほうじゃないのか?」
(なんだ、こいつら経済学部の連中か。) 俺にはさっぱり分かんねえよ。
俺はいつものように小説コーナーに居る。 映画の原作なんかも置いてあって本好きには堪らない場所だねえ。
何冊か立ち読みしてみる。
銀河鉄道999、タイタニック、ハルマゲドン、野菊の墓、、、。
アニメ映画から洋画までいろんな本が揃っている。 さすがは古本屋だ。
 そうかと思えば何や分らん宗教誌なんかも置いてあって(こんなのほんとに読むやつなんて居るのか?)って思ったりもする。
そうこうしながら立ち読みしていると1時間なんてあっという間に過ぎてしまう。
「先輩。」 いきなり声を掛けられるから俺は慌てて本を閉じて振り向いた。
「下村です。 来てたんですか?」 「ずっと読んでたよ。」
「今日 ゼミは?」 「バイトで寝過ごしちゃってさあ、、、。」
「大変なんですねえ。」 「あの本は読んでる?」
「読み始めたら面白くて30ページまで読んじゃいました。」 「そんなにかーーーーー。」
俺はまたまたドキドキしていることに気付いて、早くこの場を離れたいと思った。
それで手にしていた本を持ってレジへ、、、。 綾子はそんな俺を見送りながら新しい本を探していた。
 会計を済ませて外に出ようとすると綾子が駆け寄ってきた。 「どうしたの?」
「いい本が見当たらなかったんで出て来ちゃいました。」 「そんなことも有るんだなあ。」
「探し方が下手なんですかねえ?」 「そうかもよ。 あの本屋は意外と揃ってるほうだから。」
「そうなんですねえ。」 電線にカラスが止っている。
家族なのかなあ? 何か話してる。
「じゃあ、私はゼミに行くので、、、。」 「ああ、また会おう。」
 とは言うけれど、今日はさあ これといって予定は無いんだよなあ。 バイトも休みだし。
だからってクラスの女の子には興味も無いんだよ。
「あいつはどうだ?」「こいつはどうだ?」って勧められるけど、大したやつは居ないし、、、。
高望みだって言われるけど、炊事 洗濯 掃除が出来ればそれでいいっていうのが高望みなのかね?
仕事が出来るとか、スタイルがいいとか、優しいとか、そっちのほうがよほどに高望みじゃないか。
なあ、岸本さん。

 仕事は出来ても家事はデタラメクラスにやらないやつだって居る。 それはどうかと思うがね。
スタイルはべらぼうにいいのに天才的に不人気な人も居る。 居るだけもったいないと思う。
易しいんだけど超一級の優柔不断で融通が利かない人も居る。 居るだけ邪魔だと思う。
 声も可愛くて愛嬌も有るのに誰からも振り向かれない人だって居る。 何のために生まれてきたの?
 だからさあ、要するに人当たりが良くても何も出来なかったら意味が無いんだよ。
結婚したのに家の中はカビだらけ、ゴミだらけの家には住みたくないよなあ。
 仕事が出来ても家がそれじゃあ三日と耐えられないわ たぶん。
 本を片手に町をブラブラ、、、。 公園で一休みするかなあ。
ここさ、目の前が文学部の教室なんだ。 目立つように手を振ってみる。
(誰か応えないかなあ?) 半分だけ期待していたら居た。
窓を開けて大きく手を振り返す女、、、綾子じゃないか。
しかも嬉しそうに笑ってる。 やられたな。
 程好い日差しの中で本を読みふける。 本好きには堪らないほどの贅沢な時間だ。
教室で読んでるのとは訳が違うぞ。 何を読んでるのかって?
それはなあ、な、い、しょ、だよ。
 さあて、夕方になったからそろそろ帰るか。 あのおばちゃんも不審そうな顔してたからなあ。
玄関を入ると早速、「今日は何処で何をしてきたの?」って聞いてきた。
「公園で本を読んでましたよ。」って軽く答えたらつまらなそうな顔をしてたっけ。
(俺が何処で誰とつるんでようが、誰と遊んでようが、何をしてようが、あんたには関係ないだろう? それで給料が上がったり下がったりするのかい?)
まあね、周りがガキばかりだから気になるんだろうけどさあ。 少しは大人に見てくれよ。
 一階の廊下を歩いているとまたまた空き缶を思い切り蹴飛ばしてしまった。
「だあれ?」 おばちゃんがドアを開けたもんだから俺はさっさと階段を駆け上がったんだ。
 様子を聞いているとタイミング悪く部屋から出てきた女の子がお説教されているらしい。
「ごめんよ。 身代わりになってもらって。」
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