青春の坂道で
翌朝、気付いた時には綾子は出て行っていた。 俺を起こさないようにしてたんだろうなあ。
朝飯を掻き込むと午前中のゼミへ、、、。 校舎に入るともう中は学生たちでごった返している。
法学部の連中も理学部の連中も慌ただしく動き回っている。
教室に入ると教授先生の有り難い有り難いご講義を窺う。 眠くなってしょうがない。
何で文学部になんか入ったんだろう? そこしか無かったのかな?
法学部でも良かったんだけど、覚えることが多過ぎて頭パンクしそうだし、、、。
経済学部は、、、理論とか数字に振り回されるのが嫌で、、、。
理学部にはまるで興味が無かったし、、、。
芸術部は、、、デザイン音痴で絵も何も有ったもんじゃない。
それで差し障りの無い文学部に入ったわけだ。 とはいってもゼミは寝てばかりだよなあ。
今夜はまた先輩の店でバイトするんだ。 そっちのほうがよほどに楽しいかも。
またまた酒を貰って上機嫌で麻雀をするんだろうなあ。 風景が目に浮かぶ。
ゼミが終わった頃、いつもくっ付いてくる健太郎が宝物でも見付けたような眼でくっ付いてきた。
「なあなあ、雄二よ。 台湾が危なくなったらどうする?」 「どうもしねえよ。」
「なんだ、お前は戦争に賛成するのか?」 「賛成も反対もしねえよ。」
「おらおら、独裁者が居る。」 「は? 何で俺が独裁者なんだよ?」
「だってお前は戦争に賛成なんだろう? 危ないやつだ。」 「賛成も反対もしないってのに何で賛成になるんだよ?」
「ほらほら、食いついてきた。 お前はやっぱり極右だ。」 「アホか。 俺は左翼でも右翼でもねえよ。」
「えーーーーーーー? 中道右派なの?」 「右でも左でもねえよ。 うっせえなあ。」
廊下でやり合っていると経済学部の生徒たちがドヤドヤッと歩いてきた。
「俺も忙しいからまた今度な。」 その人込みに紛れて俺も逃げ出す。
なんか叫んでいるんだが、相手にすると超面倒だから放置する。 ほんとに厄介至極なやつらだ。
綾子はというと午後のゼミに備えて小説を読み進めている最中である。 (これ、木下さんならどう思うかな?)
こないだ、あの本屋で見付けた推理小説だ。 「この探偵さん、間抜けだよなあ。」
クスっと笑ったり釘付けになったり、エロイ挿絵に真っ赤になったり、、、。
何しろ、若い女が入浴中に殺されたりしてるんだもん。 ちょいときつかったかな?
本を閉じた綾子は窓を開けて背伸びをした。 二階建ての古いアパートである。
二階は女子用だって言うから入ってるのは女の子ばかり。
一階は男の子で、夜中まで相当に賑やかだ。 毎晩、管理人がお説教をしているのが聞こえてくる。
引っ越して一か月。 gwまであと少し。
少しはこの町にも慣れたかな?
昼になり、コンビニに寄ってから大学へ、、、。 門を入ると、、、。
「あれ? 綾子ちゃんじゃないか。」 「先輩!」
「今から?」 「そうなんですよ。 今日は午後からなんです。」
「あの山下先生のゼミね?」 「知ってるんですか?」
「俺も世話になってるから。」 「あの先生は面白いですよねえ。」
「そうか? 俺は眠くて眠くてしょうがないけど。」 「じゃあ、時間なんで行ってきます。」
本を片手に教室へ走って行く綾子を見送ってから俺は外へ出た。
「さてと、、、バイトまでは時間が有るな。 どっかで時間を潰すか。」 ここから駅前通りへ少し行くとフリージアっていう喫茶店が在る。
よく援交女が集まってくるっていう疑惑付きの喫茶店だ。 でもさすがに昼間までは、、、。
中へ入ってみる。 リチャードクレイダーマンの曲が聞こえる。 「なかなかいい店みたいだな。」
空いている奥のテーブルに落ち着くとウェイトレスがお絞りを運んできた。 「ホットで一つ。」
「畏まりました。」 ウェイトレスは奥へ下がるとマスターと何か話している。 客は他には居なくてテーブルが空いている。
コーヒーを飲みながら抱えてきた小説を開く。 なかなか読み終わらないので疲れてしまう。
(こいつ思ったより長いんだよなあ。 別のやつにすればよかったかな。) とは思うが、展開が面白くてやめられないんだ。
そのうちにポツリポツリと客が入ってきた。 見ると芸術部の連中だ。
俺は普段、あいつらと会うことが無いから誰が誰やら名前すら知らない。 聞いてみるとピカソがどうとか、ダビンチがどうとか言って盛り上がっている。
(あの中から作家先生が何人出るのかなあ?) 別に興味など無いのだが、それとなく顔を覗いてしまうんだ。
「マスター、アラモード 食べたい。」 「あいよ。 また昼飯か?」
そのやり取りにみんながドッと笑う。 「そりゃ無いよ マスター。」
「ごめんごめん。 いっつもそうだから今日もかと思ってさあ。」 このマスター、突っ込みが面白い。
メニュー表を見直した俺は席を立った。 「またいらしてください。」
ウェイトレスがペコリと頭を下げる。 店を出た俺は歩き始めた。
スーパーの前を通ってみる。 飲んだくれたおっさんが駐車場の隅っこでボーっとしてる。 その脇を子供たちが走り抜けていく。
(何とも思わねえのかな?) 子供たちの親は近くには居ないようだ。
子供が誘拐される事件はたまに起きる。 そのたびに全国的な騒ぎになる。
でも解決してしまうと元に戻るんだよな。 あれだけ警戒していても元に戻るんだよ。
そしてまた誘拐事件が起きる。 「こんなことはやめよう。」って呼び掛けてもすぐに元に戻る。
警戒心が無いというのか、面倒くさいというのか、ダメだと言われたことを学習しない親たちはまたやってしまう。
そして自分の子供が狙われたら「何でうちの子が、、、。」って半狂乱になって泣き叫ぶ。 考えが甘すぎるんだよ。
「ここなら大丈夫だろう。」 「あの人たちなら大丈夫だろう。」
そう思ってみても必ずそうだとは限らない。 人の良さそうなやつが事件を起こすんだからね。
そういう意味では大学だって絶対に安全とは言い切れない。 教授だって狙われるんだ。
賢そうな生徒がいきなり殺人犯に変わることだって有るんだよ。 自分の身は自分でしか守れないんだ。
ブラブラと歩き回ってみる。 店の回転まではまだ時間が有る。
大学の裏のほうへ回ってみた。 先輩の店とは真反対の方角だ。
「滅多に来ないけどスナックなんて在ったんだなあ。」 ビーナスって看板が揺れている。
その隣は食堂だ。 いい匂いがしてるなあ。
そこを過ぎると学生寮が並んでいる。 高校生も居るらしいね。
綾子もこの辺りなのかなあ? パトカーが走り過ぎて行った。
グルリと回って帰ってくると4時である。 「さあて、腹ごしらえをして出掛けるか。」
またまたおばさんが怪訝そうな顔をしている。 そんなことには目もくれず、俺は部屋へ、、、。
夕食の準備をしながらバイトのことをいろいろと考える。 夕食は程々にしておかないと、、、。
なんてったってお客さんが日本酒を何杯もくれるからなあ。 飲んでたらそれだけで腹がいっぱいになっちまう。
先輩は奥のほうで魚を焼いたり焼き飯を作ったりしてるからお客さんの相手はバイトの俺たちがするんだよ。
毎週のように飲みに来るお客さんも居る。 月に一度顔を見せるお客さんも居る。
顔を見せなくなったお客さんも居る。 女の客だってけっこう居る。
いつだったっけな、一人で飲みに来て酔っ払って寝ちまった女の客が居たよな。 先輩を呼ぶと、、、。
「ああ、もうちっと寝かせとけ。 目を覚ましたら帰るから。」って言われた。 ほんとかな?って心配だったけど目を覚ましたら「ごめんなさい。」って言って帰って行った。
その人はそれからも時々飲みに来てる。 見た目は可愛い人なんだよなあ。
(今夜も来るかなあ?) 仄かな期待をしながら部屋の窓を閉めた。
朝飯を掻き込むと午前中のゼミへ、、、。 校舎に入るともう中は学生たちでごった返している。
法学部の連中も理学部の連中も慌ただしく動き回っている。
教室に入ると教授先生の有り難い有り難いご講義を窺う。 眠くなってしょうがない。
何で文学部になんか入ったんだろう? そこしか無かったのかな?
法学部でも良かったんだけど、覚えることが多過ぎて頭パンクしそうだし、、、。
経済学部は、、、理論とか数字に振り回されるのが嫌で、、、。
理学部にはまるで興味が無かったし、、、。
芸術部は、、、デザイン音痴で絵も何も有ったもんじゃない。
それで差し障りの無い文学部に入ったわけだ。 とはいってもゼミは寝てばかりだよなあ。
今夜はまた先輩の店でバイトするんだ。 そっちのほうがよほどに楽しいかも。
またまた酒を貰って上機嫌で麻雀をするんだろうなあ。 風景が目に浮かぶ。
ゼミが終わった頃、いつもくっ付いてくる健太郎が宝物でも見付けたような眼でくっ付いてきた。
「なあなあ、雄二よ。 台湾が危なくなったらどうする?」 「どうもしねえよ。」
「なんだ、お前は戦争に賛成するのか?」 「賛成も反対もしねえよ。」
「おらおら、独裁者が居る。」 「は? 何で俺が独裁者なんだよ?」
「だってお前は戦争に賛成なんだろう? 危ないやつだ。」 「賛成も反対もしないってのに何で賛成になるんだよ?」
「ほらほら、食いついてきた。 お前はやっぱり極右だ。」 「アホか。 俺は左翼でも右翼でもねえよ。」
「えーーーーーーー? 中道右派なの?」 「右でも左でもねえよ。 うっせえなあ。」
廊下でやり合っていると経済学部の生徒たちがドヤドヤッと歩いてきた。
「俺も忙しいからまた今度な。」 その人込みに紛れて俺も逃げ出す。
なんか叫んでいるんだが、相手にすると超面倒だから放置する。 ほんとに厄介至極なやつらだ。
綾子はというと午後のゼミに備えて小説を読み進めている最中である。 (これ、木下さんならどう思うかな?)
こないだ、あの本屋で見付けた推理小説だ。 「この探偵さん、間抜けだよなあ。」
クスっと笑ったり釘付けになったり、エロイ挿絵に真っ赤になったり、、、。
何しろ、若い女が入浴中に殺されたりしてるんだもん。 ちょいときつかったかな?
本を閉じた綾子は窓を開けて背伸びをした。 二階建ての古いアパートである。
二階は女子用だって言うから入ってるのは女の子ばかり。
一階は男の子で、夜中まで相当に賑やかだ。 毎晩、管理人がお説教をしているのが聞こえてくる。
引っ越して一か月。 gwまであと少し。
少しはこの町にも慣れたかな?
昼になり、コンビニに寄ってから大学へ、、、。 門を入ると、、、。
「あれ? 綾子ちゃんじゃないか。」 「先輩!」
「今から?」 「そうなんですよ。 今日は午後からなんです。」
「あの山下先生のゼミね?」 「知ってるんですか?」
「俺も世話になってるから。」 「あの先生は面白いですよねえ。」
「そうか? 俺は眠くて眠くてしょうがないけど。」 「じゃあ、時間なんで行ってきます。」
本を片手に教室へ走って行く綾子を見送ってから俺は外へ出た。
「さてと、、、バイトまでは時間が有るな。 どっかで時間を潰すか。」 ここから駅前通りへ少し行くとフリージアっていう喫茶店が在る。
よく援交女が集まってくるっていう疑惑付きの喫茶店だ。 でもさすがに昼間までは、、、。
中へ入ってみる。 リチャードクレイダーマンの曲が聞こえる。 「なかなかいい店みたいだな。」
空いている奥のテーブルに落ち着くとウェイトレスがお絞りを運んできた。 「ホットで一つ。」
「畏まりました。」 ウェイトレスは奥へ下がるとマスターと何か話している。 客は他には居なくてテーブルが空いている。
コーヒーを飲みながら抱えてきた小説を開く。 なかなか読み終わらないので疲れてしまう。
(こいつ思ったより長いんだよなあ。 別のやつにすればよかったかな。) とは思うが、展開が面白くてやめられないんだ。
そのうちにポツリポツリと客が入ってきた。 見ると芸術部の連中だ。
俺は普段、あいつらと会うことが無いから誰が誰やら名前すら知らない。 聞いてみるとピカソがどうとか、ダビンチがどうとか言って盛り上がっている。
(あの中から作家先生が何人出るのかなあ?) 別に興味など無いのだが、それとなく顔を覗いてしまうんだ。
「マスター、アラモード 食べたい。」 「あいよ。 また昼飯か?」
そのやり取りにみんながドッと笑う。 「そりゃ無いよ マスター。」
「ごめんごめん。 いっつもそうだから今日もかと思ってさあ。」 このマスター、突っ込みが面白い。
メニュー表を見直した俺は席を立った。 「またいらしてください。」
ウェイトレスがペコリと頭を下げる。 店を出た俺は歩き始めた。
スーパーの前を通ってみる。 飲んだくれたおっさんが駐車場の隅っこでボーっとしてる。 その脇を子供たちが走り抜けていく。
(何とも思わねえのかな?) 子供たちの親は近くには居ないようだ。
子供が誘拐される事件はたまに起きる。 そのたびに全国的な騒ぎになる。
でも解決してしまうと元に戻るんだよな。 あれだけ警戒していても元に戻るんだよ。
そしてまた誘拐事件が起きる。 「こんなことはやめよう。」って呼び掛けてもすぐに元に戻る。
警戒心が無いというのか、面倒くさいというのか、ダメだと言われたことを学習しない親たちはまたやってしまう。
そして自分の子供が狙われたら「何でうちの子が、、、。」って半狂乱になって泣き叫ぶ。 考えが甘すぎるんだよ。
「ここなら大丈夫だろう。」 「あの人たちなら大丈夫だろう。」
そう思ってみても必ずそうだとは限らない。 人の良さそうなやつが事件を起こすんだからね。
そういう意味では大学だって絶対に安全とは言い切れない。 教授だって狙われるんだ。
賢そうな生徒がいきなり殺人犯に変わることだって有るんだよ。 自分の身は自分でしか守れないんだ。
ブラブラと歩き回ってみる。 店の回転まではまだ時間が有る。
大学の裏のほうへ回ってみた。 先輩の店とは真反対の方角だ。
「滅多に来ないけどスナックなんて在ったんだなあ。」 ビーナスって看板が揺れている。
その隣は食堂だ。 いい匂いがしてるなあ。
そこを過ぎると学生寮が並んでいる。 高校生も居るらしいね。
綾子もこの辺りなのかなあ? パトカーが走り過ぎて行った。
グルリと回って帰ってくると4時である。 「さあて、腹ごしらえをして出掛けるか。」
またまたおばさんが怪訝そうな顔をしている。 そんなことには目もくれず、俺は部屋へ、、、。
夕食の準備をしながらバイトのことをいろいろと考える。 夕食は程々にしておかないと、、、。
なんてったってお客さんが日本酒を何杯もくれるからなあ。 飲んでたらそれだけで腹がいっぱいになっちまう。
先輩は奥のほうで魚を焼いたり焼き飯を作ったりしてるからお客さんの相手はバイトの俺たちがするんだよ。
毎週のように飲みに来るお客さんも居る。 月に一度顔を見せるお客さんも居る。
顔を見せなくなったお客さんも居る。 女の客だってけっこう居る。
いつだったっけな、一人で飲みに来て酔っ払って寝ちまった女の客が居たよな。 先輩を呼ぶと、、、。
「ああ、もうちっと寝かせとけ。 目を覚ましたら帰るから。」って言われた。 ほんとかな?って心配だったけど目を覚ましたら「ごめんなさい。」って言って帰って行った。
その人はそれからも時々飲みに来てる。 見た目は可愛い人なんだよなあ。
(今夜も来るかなあ?) 仄かな期待をしながら部屋の窓を閉めた。