じれ恋
五十嵐組の解散——。


きっと誰も想像していなかった展開だ。


この広い家にみんながいるこの生活が当たり前になりすぎて、いまいち実感が湧かない。


誰も何も言うことができず再び訪れた沈黙を最初に破ったのは犬飼だった。


「五十嵐組最後のメンバーになれるなんて俺は光栄です!最後まで親父に付いていきます!」


「犬飼の言う通りです。五十嵐組が終わったとしても、一生かけて恩返ししていきます!」


紺炉が続くと、他のみんなも次々と声を上げた。


おじいちゃんはどこかホッとしていたし、私もみんなが五十嵐組を大切に思ってくれていることが嬉しかった。


私が卒業する来年の春を目処にするらしい。


それまでにみんなそれぞれ新たな門出をするための準備を進める。


その金銭的な面倒は全ておじいちゃんが見るとのことだ。


一体いくらくらい貯金があるのか少し気になってしまった。


「要!」


「はい親父」


みんなへの話が終わってから、おじいちゃんが紺炉を呼び止めた。


「お前も愛華も一度離れて過ごしてみること。これが2人の交際に対する私からの条件だ」


おじいちゃんは英語で書かれた資料をいくつか紺炉に渡した。


大学のパンフレットみたいなものだった。  


「前に一度、日本を出て世界を見たいと話してたな。もしまだその気があれば行ってきなさい」


「・・・ありがとうございます。最後の最後まで、お世話になります」


紺炉、海外に行っちゃうんだ……。


そもそも私は、紺炉の夢とかそういうことを全く知らなかった。


おじいちゃんにお辞儀している紺炉の姿を見ながら、私の心には小さなモヤが生まれた。


海外なんてすぐに遊びに行けるけど、今まで紺炉と離れたことなんてなかったからどうしたって寂しさが勝ってしまう。


でも、紺炉がやりたいことをできるのはとてもいいことだし応援はしたい。


それに私だって受験が控えている。


このぐちゃぐちゃの心に気付いたのか、紺炉は何も言わずに私を抱き寄せて包み込んでくれた。


紺炉のおっきな手で頭を撫でられると、さっきまでの不安が嘘のように消えていく気がする。


胸を張って紺炉の隣にいられるように、私は私のやるべきことをしよう。


紺炉の腕の中で私は改めて気合を入れ直していた。
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