じれ恋

「・・・本当にいいんですか?」


「・・・うん。だってもう私卒業したし。いいよね?」


「多分ちょっと痛いですよ?後悔しないですか?」


「大丈夫!!もう心の準備はできてるから!」


「じゃあ、いきますよ……」





パチンッ





耳元で、また1つ大人になれた音がした。


針で穴を開けたわけだから、さすがにじーんとした痛みはある。


そう、私は念願のピアスを開けたのだ。


「きっとこうなるだろうなと思って、俺も用意しときましたよ」


前に私がプレゼントしたピアスと同じお店の紙袋を渡された。


中に入っていた箱を開けると、ダイヤモンドがキラキラ輝いているピアスと、中心が繰り抜かれたようなハート型のペンダントが入っている。


「綺麗……でもこんなすごいの貰えないよ!!」


「卒業祝いです。俺にもカッコつけさせてください」


「・・・わかった。ありがとう!!」


「ピアスは今のファーストピアスが外れてからですね」


「じゃあペンダント付けてくれる?」


「はい、お嬢様」


紺炉は執事の真似をして胸に手を当てて礼をした。


私は紺炉がやりやすいように髪を左にまとめる。


紺炉はチェーンの端と端を持ち、私の首の後ろで繋いでくれた。


「うん、似合ってます!」


「ありがとね、紺炉!」 


私は紺炉の頬にチュッと口付けた。


「口にはしてくれないんですか?」


紺炉は自分の唇を指さしながら、余裕そうに聞いてくる。


どうせ私が恥ずかしがって、口にキスなんてできないと思ってる。


そんなことはないと証明しようじゃないか!


私は紺炉のネクタイを軽く引き寄せて、近づいてきた紺炉の口に自分の口を重ねた。


私が舌を入れると紺炉も舌を絡めてくる。


時折クチュクチュ聞こえる音に胸が高鳴る。


紺炉は片手をベッドに付いたまま、もう片方の手を私の後頭部へ回した。


もう当分は離してくれなさそうだ。


てっきりそういう流れだと思って、私は紺炉のワイシャツのボタンを上から順に外して行く。


しかし、まだ3つ目くらいのところで紺炉に手を掴まれた。


「・・・お嬢ストップ!」


「なんで?もう卒業したし良いよね?」


「親父と順番は守るって約束しましたから」


順番ってなに?


もしかして、結婚してからとかそういうこと?


高校も卒業したし、もう結婚だってできる年だ。


紺炉が何を気にしているのか私にはさっぱり分からなかった。


これじゃあ私ばっかりが求めてるみたい……


「紺炉は私とこういうことしたくないの・・・?」


「したいに決まってるじゃないですか。でも、これは俺なりのけじめなんです。これだけは譲れなくて……すいません」


駄々をこねてやろうと思っていたのに、こんなに大事にされていたらもう私からは何も言えない。


「・・・私、離れてる間に浮気するかもしれないよ?」


もちろんそんなことするわけないんだけど。


「いいですよ、また惚れさせるんで」


「でも紺炉は絶対浮気しちゃダメだからね。外人さんグラマラスだからって、絶対ダメだからね!?」
 

「なんかめちゃくちゃですね(笑)」


紺炉は苦笑いしていた。


「あと私、将来子供ほしい!」


「それは俺も同感です」


「でも男の人って歳とると精子に元気なくなるって……」


「そこは任せてください。俺の得意分野ですから!」


「もう!紺炉の変態!」


私が紺炉をポンポン叩くと彼は笑いながら開き直った。


「男なんてみんなそんなもんですよ。考えてることと言えば、月曜日のジャソプか、好きな子のHなことですから。だから次会う時は覚悟しててくださいね。まだまだ現役なので」


紺炉は自信たっぷりな様子だ。


離れている間、飛行機に乗れば行き来することは簡単にできるのだけど、私たちは会わないことに決めた。


だから次に紺炉に会えるのは4年後。


私は23歳になっていて、紺炉はちょうど40歳の年だ。
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