じれ恋
紺炉の帰国日。


予定を空けられた何人かで空港まで迎えにきた。


「要さん遅いっすね。どっちから出て来るんだろ」


おそらく紺炉と同じ便に乗っていたと思われる人たちが次々と荷物を持って出てきているけれど、紺炉らしき人はまだ出て来ていない。


出口は2ヶ所あるから、私たちはその間くらいに立って、あっちを見たりこっちを見たりしている。


「・・・・あ、紺炉いた!」


紺炉が見えた瞬間、私は走り出していた。


走りながら名前を呼ぶと、私たちを探してキョロキョロしている紺炉が私に気がついた。


もういいや、このまま紺炉の胸に飛び込んでしまおう。
 

そう思って、走ったまま紺炉の方へ向かった。


紺炉もそれを察したのか、鞄をスーツケースに置き、両手を広げてくれている。


私は遠慮なく勢いのまま紺炉の胸に飛び込む。


紺炉はしっかりと抱きとめてくれた。

 
「熱烈大歓迎だなぁ。お嬢ちょっと軽すぎないですか?ちゃんと飯食ってます?」

 
あぁ本当に紺炉だ。


これは夢じゃないんだ。


私は紺炉の顔に手を当ててそれを確認した。


「どう?私少しは紺炉が好きな大人っぽい女性になれた……かな?」


恥ずかしさを隠すため、髪先をくるくるさせながら聞いてみた。


大学に入ってからは、自分のパーソナルカラーや骨格について勉強したり、自分に似合う髪型とか化粧とか洋服を探したりしてオシャレを心掛けてきた。


少しでもその効果が出ててほしい。


「良い女になり過ぎて、一瞬誰だかわからなかったですよ」

 
紺炉はそう言って優しく頭を撫でてくれた。


顔の距離はわずか10センチほど。


目が合えば、磁石のように引かれるのは自然の摂理だ。
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