じれ恋



あれから紺炉は家の中ですれ違うたびに申し訳なさそうに「話がしたい」と言ってきた。


私があんな風に泣いちゃったから気にさせてしまったのかもしれないけど、別に紺炉が謝ることじゃない。


何も悪いことはしていないから。


だからこれ以上紺炉が何か説明する必要はないし、むしろそのお相手の話なんてされようものなら、私の心が壊れてしまう。


何も聞きたくないと伝えて、極力紺炉とは鉢合わないようにしていた。


そんな矢先だった。仕事中に突然スマホが鳴る。


相模からの着信だった。


元々相模とはメッセージのやりとりもほとんどしないのに、それも電話がくるなんておじいちゃんに何かあったんだろうか。


私は慌てて非常階段の方へ行き恐る恐る電話に出た。


『仕事中にすみません。お嬢。落ち着いて聞いてくださいね。紺炉が——』


名前が聞こえた瞬間私の頭は真っ白になった。


相模が色々説明してくれているけれど、全く頭に入ってこない。

 
かろうじて認識できたのは病院の名前くらい。


紺炉はそこにいるらしい。


私は会社を飛び出してタクシーに乗り込んだ。
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