じれ恋
俺は脇腹を押さえながら転がっていたナイフを拾い、お嬢に駆け寄る。


結束バンドと紐が食い込んだ痕からは血が滲んでいた。


目隠しも外してやると、お嬢は眩しさに目を細めたが、俺のことを見るや否やカッと目を見開いた。


「紺炉ッ!血が……!」


この状況で、自分より人の心配ができるのがお嬢だ。


けど俺はそんなの無視して続けた。


「どこ触られた?痛いとこは?」


いつも敬語で通していたのに、この時ばかりは余裕がなかった。


お嬢の肩を掴む手にも力がこもる。


「服ボロボロだけど、大丈夫。ちょっと舐められたり触られたりしただけだから……」


「舐められたり触られたりって、おおごとだろ!」 


「……やだ。大したことないもん……騒ぎにしたくない……」


お嬢の傷は、その大きさも、深さも、程度も、到底計り知れるものじゃない。


俺はそれ以上何も言えなくなった。


「とりあえず、俺のホテルの方が近いんで行きましょう。その後家まで送ります」
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