じれ恋
ホテルに戻り、お嬢が風呂に入ってる間腹の傷の具合を確認した。


本当は縫った方が良さそうだが、とりあえずは応急処置にとどめる。


「あったまりましたか?」


バスローブを羽織って出てきたお嬢に俺は声をかけた。


「・・・・して」


お嬢が下を向いたまま何か言っている。


「すいません、もう1回。よく聞こえなくて……」


「紺炉ッ!わたし全然綺麗にならないッ!洗っても洗っても、綺麗にならないッ!」
 

お嬢は俺の腕を掴んでポロポロ涙を零した。


強く擦ったのだろう、バスローブから見える首や腕、脚は赤くなっていた。


あんな怖い思いをさせて、大丈夫なわけがなかった。


俺のせいでお嬢が狙われた。


俺のせいでお嬢が攫われた。


俺がついていればこんなことにはならなかった。


自分の弱さと愚かさが許せず、拳を握りしめる。


こういう時、安易に体に触れるのは本当は良くないのかもしれない。


それでも、肩を震わせて泣いているお嬢を見たらそんなことは言っていられなかった。


何がけじめをつけらんねぇから距離を置きたいだよ。


自分(おれ)のワガママのせいでこんなことになってんじゃねぇか。


好きな女泣かせて、こんな.......。


俺はお嬢を包み込むように抱きしめ、昔お嬢が眠れない時にやっていたように、背中をトントンと優しく叩いた。


「……お願い紺炉ッ!私なんて紺炉のタイプじゃないのはわかってる!気持ちとかなくっていい。なんならお金払うから!だから、だから。紺炉で上書きして……忘れさせて……」


悲痛な叫びともとれるお嬢の願いに、俺のくだらない見栄だとか、なけなしの理性なんかは消し飛んだ。
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