じれ恋

思い出話

2014年 春 現在
Side 紺炉


眠れそうになかった俺は、そーっと階段を降りて、母家の縁側へ向かった。


廊下を歩いていると、縁側には既に先客がいるのが見える。


「お嬢、風邪ひきますよ」


月夜を眺めながら物思いにふけっている彼女の肩に、俺の羽織をそっとかける。


お嬢は一応俺の方を見るが、すぐに視線を戻した。


相変わらず無視は続いている。


俺は売られた喧嘩は買う主義だ。


そっちがその気ならこっちにも考えがある。


コンビニに行こうかとも思っていたが、こうなったらお嬢が口を開くまで話しかけ続けてやろう。


お嬢の横にピッタリとくっつくように座ってやった。


お嬢は迷惑そうな顔をしてため息をついた。


離れようとするお嬢の肩を抱き寄せ、それを阻止する。


再び迷惑そうな顔をしたお嬢は、俺の手を振り解こうと必死に抵抗する。


しかし力で俺に勝てるはずもなく、それは徒労に終わった。


あんまり暴れるもんだから、あぐらをかいた俺の上に乗せて、後ろからがっつりホールドさせてもらった。


諦めたお嬢は抵抗をやめ、さっきまでのように庭を眺める。


「夜風、気持ちいいですね」


「・・・」


「眠れないんですか?」


「・・・」


「実は俺も眠れなかったんですよ」


「・・・」


お嬢があまりにも徹底しているもんだから、もしかしたらこのまま一生無視され続けるんじゃないだろうかという不安が過る。


結局、なんやかんやお嬢のペースになってしまうのだ。


これも惚れた弱みなのだろうか。


「お嬢、いま何考えてるんですか?」


「・・・紺炉との思い出を色々思い出してたの」


無視されるのを覚悟の上だったから、返事が来て正直驚いた。


そして不覚にもホッとした自分がいる。


思い出なら俺だって色々ある。


今夜は長い夜になりそうだ———。
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