じれ恋
その日、お嬢と犬飼は早朝に家を出発した。


いつもは俺が起こしてもなかなか起きないくせに、今日は早々に1人で起きてから髪を巻いたり、まつ毛をあげたりと、いつも以上に気合を入れていた。


なんだかそれも気に食わず、むしゃくしゃした俺は見送りもせず部屋に引きこもる。


羽を伸ばすとは言ったものの、やりたいことは特にない。


せっかくの休暇もただ暇を持て余すだけだった。


ベッドに寝そべっていると、どうしたってあの2人のことを考えてしまう。


組の中では一番歳の近い2人だ。


休みの日も、2人で料理したりと何かと楽しそうにしている。


俺なんかより全然現実的なカップリングではないか?


ちょっと待てよ?


あの2人、普通にお似合いカップルじゃ?


余計な妄想ばかりが頭に浮かび、居ても立ってもいられなくなった俺はお嬢にメッセージを送ることにした。


『今日21:00から歌番組ありますけどみなくていいんですか?容量いっぱいだから録画できないですよ』


『今日の晩御飯はお嬢の好きな唐揚げらしいです』


『夜は迎えに行けませんけど、今帰ってくるなら迎えに行きますよ』



お嬢から返事が来ることはなく、ただひたすら〝既読〟の文字だけが表示されていった。



犬飼とのデートが楽しすぎて俺に返事する間も惜しいわけか。


「あークソ!もういいや寝ちまえ!」


俺は思考を強制的に停止させるためにヤケクソで昼寝をした。
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