じれ恋
Side 犬飼


「はぁぁぁぁぁ」


Tシャツを着て、カチューシャも付けて、ポップコーンも買って。


準備万端でアトラクションの列に並んでいると、夢の国には不相応な大きいため息が隣から聞こえた。


理由は十中八九あのことだろう。


「要さんですか?」


「そう!見てよコレ!」


お嬢に見せられたメッセージ画面には、要さんから一方的に送られてきたメッセージが何通もある。


あの人もなりふり構わずだな(笑)


要さんの第一印象は〝THE大人の男〟。


強くて器用で頭がキレるしっかり者。


しかし、そんな彼も好きな女の子を相手にすると途端に普通の男になる。


そんな要さんが見られるのはかなりレアなため、組の間では面白がられている。


「まあまあ、せっかく来たんですからディズミーパークを満喫しましょうよ。俺はデートだと思って楽しみます!」


お嬢が一瞬反応に困った顔をした。


きっと前に俺がお嬢のことを好きだと言ったことを思い出して気にしているんだろう。


伝えるつもりなんてなかったのに、あの時はついポロッとこぼしてしまったのだ。


「あーそんな顔しないしない!俺はお嬢と要さんのこと応援してるんですから!」


お嬢が要さんに特別な好意をもっているのは分かりきっていたことだから、それを邪魔しようなんて微塵も思っていない。


それに俺はお嬢と同じくらい要さんのことも1人の人として好きなんだよな、多分。


だから応援したいっていうのは本音。


でもお嬢が好きなのも本音。


俺ってちょーいい奴では?


「お嬢はい、あーーん!」

 
俺はお嬢の口にポップコーンを放り込んだ。


モグモグしながら今度は自分から手を伸ばしてきた。


多分気に入ったなコレは。


「どうですか?」


「・・・おいひぃ」


やっぱりお嬢は幸せそうに笑う顔が一番だ——。
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