じれ恋
Side 紺炉


「紺炉さんご飯ですよ〜」


誰かが部屋の扉をノックする音で起きた。


窓の外はもうすっかり陽が沈んで暗くなっている。


スマホを確認しても未だお嬢からの返事はなかった。


居間に行くと既に組員が集まってきていて、テーブルには夕飯が並べられていた。
 

「あれ?お嬢は?」


「要さん何言ってんすか。せっかくディズミーパーク行って、夕飯に帰ってくる人なんてそうそういませんよ」


年下の組員には笑いながら当たり前のように返されたが、俺は納得がいかなかった。



『門限は22時ですからね』


『わかりました、日付変わるまでには帰ってきてください』


俺は続けてお嬢にメッセージを送ったが、もはや既読すらつかない。


『・・・朝は言いすぎました。心配なので既読だけでもつけてください』 


ここまでくると、いよいよ心配になってくる。


犬飼がいるから滅多なことにはならないだろうが……。


もし、百万が一にでも、あの時のようなことになったら俺は……。


最悪の事態が頭をよぎり、俺は唇を噛み締めた。


とにかく犬飼と連絡をとることが先決だ。


留守電に繋がるギリギリのところでやっと犬飼が電話に出る。


『もしもーし』


「犬飼!お嬢は無事だよな!?急に既読つかなくなったけど何か巻き込まれたりしてないよな?」


『あ〜写真撮りすぎてスマホの充電なくなったらしいっす。一緒だし無事なので安心してください。それよりちょうど良かった!なんか事故で電車止まっててもう動きそうにないんですよ。お嬢ももう疲れててあれなんで、今日はホテル泊まるって相模さんに伝えといてください!』


「はぁっ!?ホテル!?今から迎え行くからどっか店入って待ってろ」


『いやぁ……』と言いながら犬飼が俺の対応に困っていると、お嬢がスマホに向かって怒鳴ってきた。


『紺炉うるさいッ!こういう時だけ保護者面しないで!そういうことだからッじゃあね!!』


強制的に電話を切られ、俺はホーム画面に表示された22:30の文字をしばらく見つめていた。


「保護者面、か」


お嬢の父親にも母親にも、兄にも姉にも、友達にだってなってやると誓ってここまできたが、結局俺はそのどれにも当てはまらない。


血の繋がりがないのだから、ただの他人同士。


分かってはいたが、いざお嬢からそれを言われるとなかなか堪える。


息子にクソババアと言われて傷つく全国の母親の気持ちが今ならわかる気がする。


そしてそんな俺に追い討ちをかけるようなメッセージが犬飼から届いた。

 
『要さんはいい加減素直になった方がいいっすよ。俺は我慢とかするつもりはないですから!おやすみなさい!』


いやいやいやいや!


我慢しないってなんだよ、しろよ!!


こっちは気になって眠れやしない。


あいにく、昼寝をしたおかげで寝溜めはばっちりだった——。
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