じれ恋



お嬢と俺は急遽唯一空いていたビジネスホテルのツインルームに泊まることになった。


早々に風呂にも入り電気も消してそれぞれベッドに潜ったのだが、お嬢がさっきからもそもぞ動いている。


「お嬢、眠れないんですか?」


「・・・うん」


「じゃあ恋バナでもしますか?」


「恋バナ?」


「だって、こういう時は恋バナですよ。最近要さんとはどうなんです?」


「……どうもこうもないよ。すごく思わせぶりなことしてくるくせに、私が好きって言っても絶対に何も言わないの。ほんとズルい!」


お嬢が顔をこっちに向けてきたから、俺もお嬢の方を向いた。


まさに修学旅行の夜みたいだ。


「そういえば、なんか要さん最近禁煙し始めたんですけど、お嬢何か知ってます?」


「え……?紺炉、禁煙してるの?」


「そうなんですよ。なんか急にピタッとやめちゃって。お嬢、何か知ってます?」


「しっ、知らないッ!」


慌てて布団をかぶったところを見ると、心当たりはありそうだ。


やっぱり禁煙のきっかけはお嬢だったか。


「お嬢」


「・・・ん?」


「要さんのこと、大目に見てあげてくださいね。」


「・・・考えとく」


俺は柄にもなく諭すようなことを言った。     


お嬢もお嬢で素直じゃない。


でも俺は知っている。


親父や組の人たちへの土産をカゴに入れた後、真剣な顔をして商品棚の前にしゃがみ込んでいたのを……。


あれはおそらく要さんへの土産を選んでいたのだ。


隣からはスースーと寝息が聞こえてきた。


1日遊んで疲れたんだろう。要さんからは特に何もメッセージは来ていなかった。


電話の最後で煽るようなことを言ったから、きっとお嬢と俺がどうなっているのか想像して今頃ヤキモキしているだろう。


もし俺が「お嬢とキスをした」なんて言えば、あの人はどんな顔をするだろう。


考えただけで面白いけど、さすがにそれは可哀想だからやめておこう。


明日彼をどんな風にからかってやろうか考えながら、俺も瞼を閉じた。
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