じれ恋



「あれ誰の彼氏だろう?」


「B組のあの子さっき彼氏と回ってたよ〜!」


女子校の文化祭で男の人はとにかく目立つ。


クラスの前で中の様子を探っていたり、スマホを見て誰かと連絡をとっているような人は大抵誰かの彼氏だ。


思わしき人物が来るたびに、「あれは誰の彼氏だろう」と探りが入るし、「誰々の彼氏がカッコよかった」なんて噂はすぐに耳に入ってくる。


私はクラスの子がザワつくたびに紺炉かもしれないと外が気になって落ち着かなかった。


確か13:00くらいにら着くと言っていたのにもう既に30分も過ぎている。


スーツは目立つから絶対にやめてと言っておいたけど、一体どんな格好で来るのか検討もつかない。


「ねぇ、なんかモデルみたいな人いたんだけど!!」


トイレから戻ってきたクラスの子が興奮気味に話しているのが聞こえた。


「誰かの彼氏?」


「いやどうだろ……でも結構年上だった!!」


「ウソ〜誰の彼氏だろ?」


紺炉は背も高いし、顔もイイ……。


モデルに見えなくないし、何より結構年上ということは、紺炉の可能性が高かった。


外の状況を確認するフリをしてトイレの方向を見ると、本当にモデルみたいな人がこちらに向かって歩いて来ていた。


「!!!」


私は紺炉がこっちに来る前に駆け寄った。


「遅いよ!来ないかと思った!」


「すいません。なんか色んなとこで店に入らないか声かけられて……」
 

モデルみたいと噂されていた紺炉を上から下まで確認する。黒のライダースに黒の襟付きシャツ、そして黒のテーパードパンツに、黒の革靴。


オールブラックコーデを見事に着こなしていた。


大人っぽくて、悔しいくらいにカッコ良い。


「私の紺炉です!」と紹介しながら校内を練り歩きたいくらいだ。


声をかけられるのも納得できる。


紺炉はほぼ毎日スーツで、家にいる時はスウェットを着ているから、私服姿はとても新鮮で私は全身をくまなく目に焼き付けた。
 

「どう?今日の俺決まってます?」


紺炉は腰を折り曲げて私と目線を合わせてくる。


自信たっぷりの確信犯。


まるで心を読まれているようだ。


「まっ、まあまあかなっ?」


私は肝心なところで盛大に声が裏返ってしまった。


こうやって見栄を張ろうとするとだいたい失敗する。


私が恥ずかしさに顔を覆いたくなっていると、クラスの委員長が近づいて来た。


「愛華のお客さん、どうぞどうぞ入ってください!」

 
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