じれ恋
彼女に押されて私と紺炉は店の中へ押し込まれた。


多分いつまでも店の外で話している私に痺れを切らしたのだろう。


「お前は早く仕事に戻れ」という無言の圧を感じた。


私は急いで紺炉の注文を取り調理担当に伝える。


厨房は紺炉の話題で持ちきりで、質問の嵐だった。


「ねぇ、あの人もしかして愛華ちゃんの・・・?」


「どこで出会ったの??」


「年上だよね!?」


「超カッコいい!」

 
私はあまり友達付き合いが広い方じゃないし、普段学校では自分の話をすることに慣れていないから、こうやってクラスの子に囲まれるのは照れ臭くも嬉しかった。


「愛華ちゃんせっかくなんだし2人で回ってきなよ〜!」


15:00を過ぎるとお客さんの入りもまばらになってきたため、私はお言葉に甘えて少し店番を抜けさせてもらって紺炉と文化祭を回ることにした。


2クラスくらいお店に入った後は、話しながら紺炉に校内を案内して回った。


途中、堂々と手を繋いで幸せそうなカップルを何組も見かける。


こうして紺炉が来てくれただけでも十分嬉しいのに、そういうのを見ると「私ももっと、もっと」と欲深い自分が顔を覗かせる。


そんな自分を心の中で自嘲しながら文化祭の様子を眺めていると紺炉が意外なひと言を呟いた。


「正直もう学生なんてめんどくさいって思ってたけど、もしお嬢と一緒に過ごせるなら戻ってもいいかな、高校生」


シラフでこんなに素直な紺炉は珍しくて、熱でもあるんじゃないかと心配になる。


どう足掻いても埋まることのない紺炉との年の差をただ恨むばかりで、もし紺炉と同じ高校だったら・・・?なんて考えたこともなかった。


でもきっといつどこでどんな風に出会ったとしても、私はまた同じように恋をするだろう。


隣を歩く紺炉の腕に飛びつき、それとなく指を絡めてみた。


すると紺炉は人前だというのに珍しくそれを握り返してくれた。


多分体をぴったりとくっつけて繋いでいるから、あまり目立たないはず。


どうか今だけは他の子たちと同じように、文化祭を一緒に回るただのカップルでいさせて——。
< 59 / 120 >

この作品をシェア

pagetop