じれ恋

それは昨日のこと。


「ねぇ紺炉。私おじいちゃんから縁談の話された。相手の人、なんかすごい組の若頭なんだって……」


ちょっとくらい嫉妬の顔を見せてくれるかと思った。


『お嬢はお嫁になんていかなくていいですよ』って、『ずっと俺がそばにいます』って。


そう言ってくれるのを期待していたのに。


彼の口から出た言葉は、そのどれでもなかった。


「良かったじゃないですか。それなら俺も安心して任せられます」


期待した私が馬鹿だった。


思い出すだけでも沸々と怒りが込み上げてくる。


こうなったらとことん困らせてやる。


こうして私は昨日から籠城(ろうじょう)を決め込んでいるのだった——。
< 6 / 120 >

この作品をシェア

pagetop