じれ恋
「ちょっと!あの人迎えに来てくれる人いないって!傘もないって!」


「大丈夫です。近くに側近いるの見たんで」


紺炉はなんだか機嫌が悪い。


——忙しかったなら迎えも大丈夫だったのに・・・。


「側近・・・?紺炉あの人と知り合いなの?彼、私が誰なのか分かってた感じだし……」


「アイツは東雲組の若頭なんですよ。お嬢が小学校入る前くらいに確か一度会ってます。覚えてないのも無理ないですけど」


紺炉は面倒くさそうに答えた。


「若頭!?あの人が!?全然見えない……だって、すごい穏やかだし紳士だったし……」


うちはおじいちゃんの血を引いているのが私しかいないから、現状若頭が不在の状態だ。


だから、組の中から後継者を選ぶか、あるいは私が結婚する人に若頭となってもらうことになる。


若頭というと、とっつきにくそうで、ちょっと怖くて、冷たそうなイメージがある。


どちらかと言うと紺炉の方が……そう思いながら隣を盗み見ると、紺炉は不機嫌そうにしていた。


「紺炉、なんか怒ってる……?」


「……いや別に。いいですか、どこか連れて行ってあげるとか、何か買ってあげるって言われてもついていっちゃダメですからね」


「私そんなに子供じゃないし……。それに会ったことあるなら知らない人じゃないんだし良くない?」


「危機感をもってくださいって話です!お嬢はほんとチョロいんですから。さっきだってちょっと可愛いって言われただけでまんざらでもなさそうでしたし、簡単にキスまでされて……」


ナニコレ?


やっぱり嫉妬?


嫉妬してくれてるよね?


私は紺炉に確認したい気持ちを堪えて、とりあえずテキトーに返事をしておいた。
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