じれ恋
Side 紺炉
お嬢から学校を出たと連絡が来た。
まだ16:00過ぎだというのに、外はとても暗い。
空がゴロゴロと鳴っているから、ザーッとひと雨降りそうだ。
多分お嬢は傘を持っていなかった。
『迎えに行くのでコンビニで時間潰しててください』
とりあえず先にメッセージだけ入れておいて、俺は残りの仕事をキリのいいところまで進めて家を出た。
駅前に着いてコンビニの方へ向かうと、中で待ってるよう伝えたのになぜかお嬢はコンビニの外にいて、見覚えのある男と話していた。
さらにそいつはお嬢の手を取りその甲に自分の唇を寄せる。
キザな行為にお嬢がときめいている間に俺は大股で2人に近づき、そいつの手を弾いた。
「ひどいじゃないか、要」
「テメェ何しにきた、匠」
お嬢は状況が飲み込めずひとり焦っていた。
「可愛らしい君のご主人に挨拶させてもらっただけだよ」
可愛らしいと言われて照れるお嬢に若干イラッとした俺は、匠がお嬢に話しかけている途中で彼女の手を引っ張りその場を離れた。
足がもつれそうになってよろけたお嬢の体重が腕にかかるが、全く大したことはない。
俺のことを止めようとするお嬢をスルーして手を引いたまま歩き続ける。
「ちょっと!あの人迎えに来てくれる人いないって!傘ないって!」
「大丈夫です。近くに側近いるの見たんで……」
コンビニのそばに2、3人、同業者らしき男たちが立っていた。おそらくあれは東雲組の人間。
匠の側近、世話係といったところだろう。
「側近・・・?ていうか、紺炉はあの人とどういう知り合い?私が誰なのか分かってた感じだけど……?」
「アイツは東雲組の若頭なんですよ。お嬢が小学校入る前くらいに確か一度会ってます。覚えてないのも無理ないですけど」
俺ら五十嵐組と東雲組は友好的な関係を続けている。
そもそも、〝極道〟と聞くとどういうイメージをもつだろうか。
暴力団員?ヤクザ?反社会的組織?
極道は仏教用語で、仏法の道を極めた僧侶を指す言葉だ。
つまり元々は良い意味の言葉なのだ。
それが江戸時代あたりから、「弱きを助け 強きをくじく」をモットーとした者を表すようになる。
そしてそれがいつの間にか博打に明け暮れる者なども含まれるようになり、意味合いが変わってしまったらしい。
しかし五十嵐組は、昔と変わらず弱きを助ける存在として代々続いている。
犯罪なんて犯さないし、無意味な争いも行わない。
東雲組も同じだ。
親父同士が仲がいいこともあってたまに互いの家に行ったりすることもある。
前にお嬢が会ったのはちょうどその時。
まだ人見知りが激しかったあの頃は、俺の足にしがみついて後ろに隠れていた。
匠は今日のようにお嬢に話しかけていたが、彼女が覚えていないのも無理はない。
「若頭!?あの人が!?全然見えない……だって、すごい穏やかだし紳士だったし……」
お嬢はまるで「紺炉とは大違い」とでも言いたげな顔で俺の方を向いてきた。
「アイツみたいに紳士的じゃなくて悪かったな」と心の中で臍を曲げる。
「紺炉、なんか怒ってる……?」
「……いや別に。いいですか、どこか連れて行ってあげるとか、何か買ってあげるって言われてもついていっちゃダメですからね」
「私そんなに子供じゃないし……。それに会ったことあるなら知らない人じゃないんだし良くない?」
「危機感をもってくださいって話です!お嬢はほんとチョロいんですから。さっきだってちょっと可愛いって言われただけでまんざらでもなさそうでしたし、簡単にキスまでされて」
危機感を持ってほしいというのは本当で、これは俺だけじゃなく親父や相模さん、犬飼や他のやつだって思ってることだ。
俺は世話係として、みんなを代表しただけ。
決して嫉妬とかそういうのではないと自分に言い聞かせたのだった——。
お嬢から学校を出たと連絡が来た。
まだ16:00過ぎだというのに、外はとても暗い。
空がゴロゴロと鳴っているから、ザーッとひと雨降りそうだ。
多分お嬢は傘を持っていなかった。
『迎えに行くのでコンビニで時間潰しててください』
とりあえず先にメッセージだけ入れておいて、俺は残りの仕事をキリのいいところまで進めて家を出た。
駅前に着いてコンビニの方へ向かうと、中で待ってるよう伝えたのになぜかお嬢はコンビニの外にいて、見覚えのある男と話していた。
さらにそいつはお嬢の手を取りその甲に自分の唇を寄せる。
キザな行為にお嬢がときめいている間に俺は大股で2人に近づき、そいつの手を弾いた。
「ひどいじゃないか、要」
「テメェ何しにきた、匠」
お嬢は状況が飲み込めずひとり焦っていた。
「可愛らしい君のご主人に挨拶させてもらっただけだよ」
可愛らしいと言われて照れるお嬢に若干イラッとした俺は、匠がお嬢に話しかけている途中で彼女の手を引っ張りその場を離れた。
足がもつれそうになってよろけたお嬢の体重が腕にかかるが、全く大したことはない。
俺のことを止めようとするお嬢をスルーして手を引いたまま歩き続ける。
「ちょっと!あの人迎えに来てくれる人いないって!傘ないって!」
「大丈夫です。近くに側近いるの見たんで……」
コンビニのそばに2、3人、同業者らしき男たちが立っていた。おそらくあれは東雲組の人間。
匠の側近、世話係といったところだろう。
「側近・・・?ていうか、紺炉はあの人とどういう知り合い?私が誰なのか分かってた感じだけど……?」
「アイツは東雲組の若頭なんですよ。お嬢が小学校入る前くらいに確か一度会ってます。覚えてないのも無理ないですけど」
俺ら五十嵐組と東雲組は友好的な関係を続けている。
そもそも、〝極道〟と聞くとどういうイメージをもつだろうか。
暴力団員?ヤクザ?反社会的組織?
極道は仏教用語で、仏法の道を極めた僧侶を指す言葉だ。
つまり元々は良い意味の言葉なのだ。
それが江戸時代あたりから、「弱きを助け 強きをくじく」をモットーとした者を表すようになる。
そしてそれがいつの間にか博打に明け暮れる者なども含まれるようになり、意味合いが変わってしまったらしい。
しかし五十嵐組は、昔と変わらず弱きを助ける存在として代々続いている。
犯罪なんて犯さないし、無意味な争いも行わない。
東雲組も同じだ。
親父同士が仲がいいこともあってたまに互いの家に行ったりすることもある。
前にお嬢が会ったのはちょうどその時。
まだ人見知りが激しかったあの頃は、俺の足にしがみついて後ろに隠れていた。
匠は今日のようにお嬢に話しかけていたが、彼女が覚えていないのも無理はない。
「若頭!?あの人が!?全然見えない……だって、すごい穏やかだし紳士だったし……」
お嬢はまるで「紺炉とは大違い」とでも言いたげな顔で俺の方を向いてきた。
「アイツみたいに紳士的じゃなくて悪かったな」と心の中で臍を曲げる。
「紺炉、なんか怒ってる……?」
「……いや別に。いいですか、どこか連れて行ってあげるとか、何か買ってあげるって言われてもついていっちゃダメですからね」
「私そんなに子供じゃないし……。それに会ったことあるなら知らない人じゃないんだし良くない?」
「危機感をもってくださいって話です!お嬢はほんとチョロいんですから。さっきだってちょっと可愛いって言われただけでまんざらでもなさそうでしたし、簡単にキスまでされて」
危機感を持ってほしいというのは本当で、これは俺だけじゃなく親父や相模さん、犬飼や他のやつだって思ってることだ。
俺は世話係として、みんなを代表しただけ。
決して嫉妬とかそういうのではないと自分に言い聞かせたのだった——。