じれ恋

俺とお嬢

2014年 春 現在
Side 紺炉


「お嬢、ご飯できましたよ。昨日の夜から何も食べてないからお腹空いたでしょう?」


「・・・・」


応答はナシ。


昨晩からお嬢はこうして自分の部屋に引きこもっている。


犬飼(べつのやつ)がこっそり持って行った差し入れは食べているらしいしから、全くの飲まず食わずではないことは確かだ。


コノヤロー、犬飼は部屋に入れるくせに、俺には徹底的に無視を決め込むつもりか?


こうなると厄介だ。


この頑固さは親父譲りか、それとも光矢さん(ちちおや)譲りか、意外と姐さん(ははおや)譲りかもしれない。
 
 
大方、昨日俺が言ったことに腹を立てているのだろう。


『良かったじゃないですか。それなら俺も安心して任せられます。』ってやつ。


わかってくださいよ、お嬢———。


ただの世話係の俺が、〝縁談を受けないでくれ〟なんて言えるわけがない。


お嬢の大切な未来をぶち壊すことなんて、できるわけもない。


窓の外は、まだ春なのに真夏のような青空が広がっている。


そういえば、今日は全国的に異例の夏日だとニュースで言っていた。


17年前、初めて俺がこの家に来た日も、これくらいカラッと晴れた夏日和だった。
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