じれ恋
「お嬢、最近帰り遅いこと多いですね。予備校とか行き始めたんですか?」


「……予備校!?行ってないよ!ほら、私にもさ、色々やることあるんだもん!」


お嬢に聞いてもこの調子だ。


別に言いたくないならそれでもいいのだが……。


「……それならそれでいいんですけど。わざわざ迎えを犬飼に変えなくてもよくないですか?」


「……え〜だってそれおじいちゃんが決めたことだから、私に言われても……」


あぁ、絶対親父は気づいてるパターンだ。


「目を覚ませ」「冷静になれ」という親父からのメッセージだ。


俺を問い詰めるわけでもなく、こうやって暗に伝えてくるところに親父の優しさを感じる。


今ならまだ目を瞑る——そう言われている気がした。


でもむしろこれで良かったのかもしれない。


実際、日に日に膨らむお嬢への気持ちを俺は抑えることができていない。


誰かに止めてもらわないとどうにも対処できないところまで来ているのだから。


すっかりクリスマスムードで浮かれた街の様子がなんだか途端に鬱陶しく感じた——。
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