じれ恋
「紺炉が入ったら脱ぐからあっち向いてて!!」


別に裸くらい今さらなのだが、俺は「はいはい」と適当に返事をしてお嬢に背中を向け、目の前に広がる庭の景色を眺めた。


チャポン……


お嬢が脚を入れたのか、水面が音を立てて揺らめく。


「もうお嬢の方向いていいですか?」



隣に気配は感じていたが、念のため確認をした。


「・・・いいよ!」


湯に浸かないようにお嬢の髪は高い位置でまとめられていた。


普段あまり見ないうなじにデコルテ、そして紅潮した頬。


お嬢からこんなにエロさを感じたのは初めてだ。

 
——17歳相手に何ドキドキしてんだ俺は。


すっかりこの状況にのぼせた俺は、躊躇うことなくお嬢の首筋に顔を近づけ強く吸い上げた。


キスマークなんて久しぶりすぎて、付いてなかったらどうしようかと若干不安になりながら離れると、くっきり痕がついていた。


「なっ、ちょっと!服から見えたらどうすんの!?」


「……むしろ見せつけてくださいよ、みんなに」


普段絶対に言わないようなことを言う俺にお嬢は「紺炉酔ってる?」と聞いてきた。


あぁ。


これまでのこと全部、『酔ってました、ただの気の迷いです』と、一言二言で片付けられればどんなに楽なんだろう……。


誰に見られても言い逃れができないこの場所でこんなことをしているなんて、よく考えればかなりリスキーな行為だったが、この時の俺はもうお構いなしだった。


僅かに開いていたお嬢の口を塞ぎ俺の舌を絡ませる。


お嬢のおぼつかない舌の動きが、かえって俺を夢中にさせた。


気づけばお嬢は茹で(だこ)寸前になっていて、慌てて風呂から引き上げる。


親父にも、組の奴にも隠れて何やってんだか……。


一体俺はいつまでこんな中途半端なことを続けるのだろう——。
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