じれ恋
幼い頃はまだ良かった。


オムツ替えもお風呂も、慣れればさほど大変ではなかったし、何より「こんろ(こんお)」と一生懸命俺の名前を呼んで走ってくるお嬢はとにかく可愛かった。


歳の離れた妹ができたような感覚だ。


そんな俺たちの関係が狂い始めたのは、いや正確に言えば〝俺がお嬢のことをただの主人として見れなくなった〟のは、彼女が中学を卒業するくらいからだ。


まずお嬢は、少し遅れて生理が始まった。


「早く生理がきてほしい」と言っていたお嬢だが、いざその時がくるとかなり混乱していた。


「びっくりしましたよね。でもおめでとうございます。服とか汚れてません?あと、お腹冷やさないようにしてくださいよ」


いきなり生理だと言われた時は面食らったが、さすがに17年も長く生きていれば、男の俺でも生理がどんなもんかも、女性の体の変化も概ね知っている。


お嬢を安心させられるくらいのことは言えた。


「ブラを買いに行く!」というお嬢に、駅ビルの中のランジェリーショップに付き合わされたこともあった。


まるで犯罪者を見るようなあの店員の目は今思い出しても笑えてくる。


通報されなかったのがむしろ奇跡かもしれない。


問題はそこからだった。


「ブラのホックがうまく留まらない」とかで、お嬢は毎回俺を呼びつけた。


外したことなら数えきれないほどあるが、留めたことはなかったなと思いながら部屋へ向かう。


俺はてっきり、キャミソールとか何かしらを上に着て俺を待っていると思っていたが、お嬢は制服のスカートを履き、上はブラだけの状態でこちらを向いた。   


俺は頭を抱えた。


それと同時に、人の気も知らないで、こんな無防備な姿を晒すお嬢への怒りと危機感を覚えた。


男がみんな俺みたいな鋼の理性を持っていると思ったら大間違いだ。


そして俺自身が男として認識されていないことを思い知って、わりと凹んだ。


華奢なところは変わらないくせに、所々柔らかそうな女性らしい体つきになっていた。


もちろんガン見なんてしていない。一瞬、チラリと目がいっただけだ。


その上、化粧だなんだとさらに自分に磨きをかけている。


年頃の娘をもつ父親の複雑な心境がなんとなく分かった気がした。


これは、意識するなと言う方がおかしい。
俺は半ば開き直って対応していた。
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