じれ恋

番外編 相模の1日

2014年 春
Side 相模


俺は相模啓介(さがみけいすけ)


もう長いことこの五十嵐組でお世話になっている。


今は組長付きをしているが、元々は光矢(みつや)、つまりお嬢の父親の世話係をしていた。


ただ俺たちはお嬢と紺炉ほど歳が離れていなかったから、兄弟のように過ごし、親友のような関係だった。


光矢が結衣(ゆい)さんと結婚し、紺炉のほか何人か新入りも増えた。


そしてお嬢が生まれ、俺たちは平穏で幸せな毎日を送っていた。


そんな最中、あの悲劇が俺たちを襲った。


飲酒運転のトラックが光矢の運転する車に突っ込んだのだ。


光矢も助手席に座っていた結衣さんも即死だった。


あの日、どうして車を運転していたのが俺ではなかったのか。


もし俺が車を運転して2人が後部座席に座っていれば、あんなことにはならなかったかもしれないと俺は今でも後悔している……。


とまあ、昔話はこの辺にしておこう。


俺の朝は、情報の確認から始まる。


新聞の朝刊に目を通し、メールのチェック。


組長のスケジュールを再確認して、適宜調整を行う。


紺炉はお嬢を起こすところからいつも手を焼いているようだが、組長は基本的に全てご自身でされるから、俺が関わるのは仕事のことだけだ。


さて、そんな俺は最近頭を悩ませていることがある。


お嬢と紺炉のことに関してだ。


お嬢にとって紺炉は物心ついた時からそばにいた世話係。


紺炉に懐くのは当然だし、それ以上の好意を抱いていることも見ればわかる。


同じように、紺炉にとってもお嬢は生まれた時からそばで守ってきた女の子で、妹のように娘のように大事にしていた。


お嬢からの気持ちもうまい具合に受け流していたように見えた。


が、それは違ったようで。


どうやら本心では、紺炉もお嬢に対して同じ想いを抱いていたらしい。


最近の2人の様子を見ればそれは明らかで、組の中でも密かに公認の仲になっている。   


2人の仲をよく思わない者など五十嵐組にはいない。


しかし、事はそう単純ではない。


お嬢と一緒になるということは、若頭になることを意味する。


つまり、将来的に五十嵐組の組長となるのだ。


お嬢と紺炉がくっつくことは大賛成でも、だからといって自動的に紺炉が若頭の座に就くとなると、それはまた話が変わってくる。


うちの組に限ってないと信じたいが、内部抗争が起こったとしてもおかしくない。


だから、俺としてはあの2人の仲を見てみぬふりで放っておくのはあまり良くないと思っていた。
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