可愛いわたしの幼なじみ〜再会した彼は、見た目に反して一途で甘い〜

第8話

○夏祭りも終わりに近づいた頃(夜9時を回っている)
花火の打ち上げも終わり、再び祭りの雰囲気を味わうべく会場に戻ってきた二人。
今は祭り出口に向かって二人で無言で歩いている。
屋台も徐々に店じまいを始めていて、人もまばら。

実里(・・・あっという間だったな。・・・すごく楽しかった。
こんなに長く一緒にいたのって子どもの頃以来だ。
だからなんて言うか・・・、別れるのがすごくさみしい)

(いっくんも、同じ気持ちだったらいいな)

ちらっと一樹の方を見る実里。


そのときだった。
男の声「あれぇー小森じゃねぇ?」
女の声「わーほんとだ!久しぶりぃ」
けたけたと笑う男女の声。

実里の顔から血の気を引いていく。
今までの楽しさが嘘のように、心が冷たくなっていくのを感じた。

実里(この甲高い声と下品な笑い声。忘れたいけど、忘れられない)

実里が恐る恐る声のする方を向くと、
予想通り、小中学校の元同級生たちが、7・8人ほどの集団で立っていた。
中には知らない顔もある。全員が一様にニヤニヤしながら実里の方を見ている。
その中心にいる男は、小・中とずっと同じクラスで、当時もクラスのリーダー的な存在だった。そして実里のことを「ビッチ」と呼び始めた張本人だった。その隣にいる派手な身なりの女の方もよくその男といっしょにいた元同級生だ。

元同級生女子「小森さん全然変わってないんだけど!うけるw」
元同級生男子「久しぶりぃ~。元気にしてた?」

実里(あぁ、最悪だ。こんなところで会うなんて)
よりにもよっていっくんといるときに)

泣きたくなるのをぐっとこらえ下を向く実里。

実里モノローグ
地元のお祭りと言っても、私の生まれ育った地域は、小中学校とは離れた地区――・・・。ここは、隣の学区とのちょうど境にあって、いっくんが通う小学校の方が距離的に近いくらいだった。大半の元クラスメイトとも生活圏が離れるから、こんなところで出くわすなんて思っていなかったのに。


その集団の中にいた、元同級生含む女子たちが
実里の隣にいる一樹に気づき、
元同級生女子「(ひそひそ声で)ねぇ・・・。めっちゃイケメンなんだけど」
ほかの女子「めちゃくちゃタイプ!彼女とかいるのかな?」

元同級生男子「(一樹の方をちらちら見ながら)なになに、カツアゲでもされてんの?
かわいそーww」
また笑い声。

一樹「あ?」
そこではじめて一樹が声を発する。
実里がはじめて聞く、低くて暗い一樹の声色に、トクン、と心臓が音を立てた。

実里(・・・どうしよう、いっくんの方見られない)

実里は時間が過ぎ去るのをじっと待つように
ぎゅっと目をつむり黙って下を向いている。

実里(いっくんには嫌われたくない――・・・)

元同級生男子「(こ、こえー・・・)
つーか知ってます?こいつ地元じゃ、こんな見た目でビッチって有名なんですよー」

実里(あぁ、終わった・・・。いっくんにだけは知られたくなかった。
   しかも、こんな形で・・・。

   もう、消えたい)

実里はこの状況に耐えられず、走ってその場を後にする。

元同級生たちの「あーあ、行っちゃったーww」という笑い声が聞こえてくる。

一樹の「みさと!」というみさとを呼ぶ声も聞こえた気がしたが、
悲しくて、自分が惨めで仕方なくて、振り返らずただその場から早くいなくなりたくて
振り返らず無心でお祭り会場を後にした。

○一樹と一緒に花火をみた神社
神社周辺ももうすっかり人気がなく、賑やかだったお祭りの雰囲気もここでは感じられない。
しんと、静まりかえった境内。きゃははと楽しそうな声が遠くから聞こえてくる気がする。
明かりもなく、月の光だけで照らされている神社の境内。木の陰でひとり膝を抱えうずくまっている実里。

実里(――最悪だ。
もう消えたい、いなくなりたい・・・)

先ほど元同級生から言われた言葉を思い出す。

*回想
元同級生男子「(一樹の方をちらちら見ながら)なになに、カツアゲでもされてんの?
かわいそーww」
それから笑い声。
*回想終わり

実里(そうだよね、こんな組み合わせおかしいよね。
   私が一番そう思ってるよ・・・。
   もう、いっくんと一緒にいられない。
   いっくんに私はふさわしくない・・・。

   わかってはいたけど、何でこんなに胸が苦しいんだろう)

  (最初から、間違ってた。
  いっくんの優しさに甘えてた。

   ごめん、いっくん
   こんな私でごめんね・・・)

実里の目から涙がこぼれ落ちる。

実里(こんなことになるなら、いっそのこと
再会なんかしなかった方が――・・・)

しばらく時間が経過していた。
実里は神社の境内で膝を抱えてうずくまったままだった。

すると、パタパタと誰かが神社の石階段を上がってくる足音が聞こえた。

一樹の声「・・・みさと?」

実里 返事はせず、
(うそ・・・。いっくん?探していてくれたの?)
不覚にもうれしいと思ってしまう気持ちにはあらがうことができない。
だけど今は会いたくないという気持ちもある。

足音が近づいてくる。
すぐ近くでピタッと止まる気配、そして一樹の「はぁ、」という息づかいを感じた。

一樹「よかった、やっと見つけた」
  「急にいなくなったらびっくりするだろー・・・」
一樹も実里のすぐ隣にしゃがみ、いつもの調子でぽんっと実里の頭をなでる。

一樹の優しい声音と行動に、(うれしい)と心が反応するのを感じる実里。

実里「・・・」
顔を膝に埋めたまま、一樹の方を見ようとしない。
一樹「みさと?」
一樹が実里の顔をのぞき込もうとする気配がする。
実里「・・・ごめん、
  今はひとりになりたい」

一樹はしばらく黙っていたが、

一樹「みさと、顔あげて」
実里「・・・やだ」
一樹「いいから」

一樹はいつもとは違い、力強く実里の両手首をもって顔を上げさせる。
ふたりはぱっちりと目が合う。
実里の両目にはまだ涙がにじんでいる。

実里は泣きはらした顔を見られ、その気恥ずかしさから
一樹から顔を背けようとする。その次の瞬間――。

そっと優しく触れるみたいに実里の唇にキスをする一樹。

実里「・・・!??」
実里 あまりの予想外の一樹の行動に目を見開いて驚いている。
そして遅れて顔が真っ赤に染まる。

一樹「・・・ごめん。したくなったから」
続けて、ぎゅっと静かに、しかし力強くみさとを抱きしめる一樹。

一樹「大丈夫だよ、みさとは何も心配しなくていい」

一樹 ぽんぽんと優しく美里の頭をなでる。
  「俺がいるから」

実里「・・・っ」
   (なんでそんなに優しいことを言ってくれるの?
    こんな私に幻滅しなかった・・・?)

   (でも、こういうところ、昔と変わってない。
    見た目や口調は変わっても、やっぱりいっくんはいっくんのままだ――・・・)

実里も安心したのか、気持ちが昔(一樹とよく遊んだ小学生のころ)に戻ったのか
一樹の背中に腕を伸ばした。そして一樹の肩越しにまた大泣きした。
この涙は、一樹の昔と変わらない優しさに触れた安心感と喜びから来るものだった。
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