環くんは、フォーク化現象に悩まされている
カメラが入った斜めがけバック。
葛藤と戦いながら、ギューッと胸の前で抱きしめる。
私はなりたいんだ。
お父さんが書く小説に出てくるような人間に……
主役じゃなくていい。
スポットライトを浴びなくていい。
背景と化したモブでいい。
どんな小説にもいるから。
楽しそうに友達とおしゃべりをする、名前すらついていないキャラが。
その中の一人に、私はなりたい。
そのために……
私がしなきゃいけないことって……
教室のドアの斜め前。
足を震わせながら立ち尽くす私。
こぶしを握り締め、お腹にぎゅっと力を加える。
喉にたまるツバをゴクリ。
喉の奥に押し込むと、文化祭の準備をしてくれているクラスメイトに向かって、大声を張りあげた。
「あっ、ああっ、ありがとうございます!」