【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜

 次の授業は、魔法基礎学だった。この科目は全ての生徒が必修で、複数のクラスが合同で講義を受ける。長机が沢山並ぶ講堂で、オリアーナはセナから一番離れた席に座った。ちょうど隣でリヒャルドが熱心に予習をしている。オリアーナは机の上に項垂れた。

(恥ずかしすぎる……)

 先程セナに対して口走ってしまった言葉を思い出す。

『誰にも――取られたく、ないかも』

 これでは、完全に嫉妬しているみたいだ。自分らしくなかったと反省する。するとリヒャルドがオリアーナに言った。

「浮かない顔してどうした? レイ……いやオリア――でもなくて、レイモンド」

 苦虫を噛み潰したような顔をするリヒャルド。どうやら彼は、目の前にいるのがオリアーナという事実にまだ慣れていないようだ。

「おかしなことを友人に言ってしまって、反省していたんだ。……ああ、どうしよう。たぶん引かれた……」
「何やらかしたかは知らねーけど、起きたことをくよくよしたって仕方ないだろ。俺は全く悩まないタイプだ」
「……だろうね」
「だろうねって何だよ」

 リヒャルドが神経質だと言ってきたら逆にびっくりしてしまう。リヒャルドは再び教本に視線を落として、ペンを動かし熱心に勉強し始めた。

「予習なんて偉いね」
「別に、フツーだろこれくらい」

 彼はあまり勉強を熱心にしそうなタイプではなさそうに見えるのに、かなり真面目だ。そういう意味ではジュリエットと真逆。彼女は真面目そうに見えて全然真面目じゃない。
 するとまもなく、魔法基礎学を教えるマチルダが教壇に立った。

「では皆さん、本日の授業を始めます。今日は杖の扱いの続きです。より親和性の高い杖を選ぶために、皆さんには精霊について知ってもらいます」

 そう言って彼女は、教卓の傍の机に十本の杖を並べた。精霊といえば、神殿で修行中のオリアーナにとってタイムリーな内容だ。なんの変哲もない杖十本に見えるが、それぞれに色が違う精霊が宿っているのがオリアーナには確認できた。

(私には見えてるけど、普通の人はどう区別するんだろう)

 マチルダが言う。

「神木を使って作る杖には、しばしば精霊が宿ります。精霊もまた、それぞれに固有の特徴があり、使用者の属性に一致する杖を使えばより力を発揮できるのですよ」

 彼女の解説を聞きながら、オリアーナはなるほどと思った。杖の色は、赤、黄、黒、緑と分かれており、それは魔力属性の象徴的な色だ。アーネル公爵家出身のオリアーナはたぶん、光属性の象徴色である黄色の杖との相性がいいはず。

 マチルダはそれから目を閉じながら杖の一本一本に手をかざしていき、緑の光をまとった杖の前で止まった。その杖を手に取り、穏やかな口調で言う。

「私は風魔法を得意とするので、こちらの杖がしっくりします。私に精霊は見えませんが、親密度の高い杖と、そうではない杖では歴然とした差がありますよ。――ほら、この通り」

 彼女は精霊が宿っていない杖と、親和性の高い精霊が宿った杖をそれぞれ振るって魔法を唱えた。全く威力が違う風が、講堂の中に吹いた。

 精霊が見えるリヒャルドが隣で呟いた。

「俺はあの一番右だな。活発なのが宿ってる」
「……本当だ。リヒャルド王子の属性にも一致していますね」

 右の杖は、小ぶりの緑色の光の玉が飛び回っていた。
 すると次の瞬間、マチルダと視線がかち合う。オリアーナは嫌な予感がして頬をひきつらせた。

「では。どなたかに代表して杖選びを実践していただきたいと思います。アーネルさん。前に来なさい」
「はい」

(……やっぱり)

 こういうとき、教師たちはオリアーナを指名しがちだ。品行方正で真面目なので扱いやすいのだろう。
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