【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


「え……?」
「私の好きな人、セナだって言ったら――迷惑?」
「…………」

 セナにはもう好きな相手がいる。分かっていても自分の気持ちを騙せない。セナのことが好きだ。オリアーナは切なげに眉を寄せて、声を絞り出した。

「好き。……セナのことが、好き。ごめん……ただの幼馴染としか思われてないって分かってる。だからこれからも、友達として仲良く――」
「……ないだろ」
「え?」
「迷惑な訳、ないだろ」

 直後、ぐいっと手を引かれて抱き締められる。嗅ぎなれた麝香の匂いがする。そして、セナの心臓は激しく音を立てていた。ぎゅっと身体を包んだ状態で、上から囁いてくる。

「いつから? いつから俺のこと――好きになった?」
「……気づいたのはつい最近のこと。でもたぶん、ずっと前から」
「……そっか」

 セナはそう言って身体を離した。彼は見たこともないくらい嬉しそうな顔をしていて。赤く染った頬を片手で隠しながら漏らす。

「やば……嬉しすぎて、にやける。夢みたいだ」
「じゃ、じゃあ、セナも私のこと……?」

 まさかそういう反応をされるとは思っていなかった。普段は感情の機微に乏しい彼が、年相応の青年らしい様子であからさまに喜んでいて。彼は目を細めてから頷く。

「嬉しいよ、リア。俺の好きな人は、お前だよ。子どものころからずっと好きだった」
「ほんと……?」
「本当。お前、鈍感だから全然気づいてなかったけど」
「…………!」

 セナはしゃがみこみ、少しだけ緩んだ口元を両手で塞いだ。オリアーナも火照った顔を逸らす。

(どうしよう……私、嬉しくて舞い上がりそうだ)

 セナがその様子を見て。ふっと小さく笑う。それから上目がちにこちらを眺めて、甘えるように懇願してくる。

「あのさ。――もう一回、抱き締めてもいい?」
「……!」

 オリアーナがこくんと小さく頷くと、立ち上がったセナにもう一度身体を抱き寄せられた。



 ◇◇◇



 二人は中庭に出てベンチに並んで座った。思いが通じ合って間もないので、なんとなく気まずい。しかしセナは、いつも通りのクールな調子にすっかり戻っていた。

「レイモンドの具合は?」
「えっと……うん、かなりいいよ。体がなまるってもう剣振ってる」
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