【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
ジュリエットがブロッコリーをフォークに刺して、リヒャルドの口の中にぐいと押し込む。親しげな様子を見て、オリアーナがセナにに囁く。
「……あの二人って結構いい感じだと思わない?」
「そう? 親子にしか見えないけど」
「はは、そうかも」
ブロッコリーをなんとか飲み込んだリヒャルドが、オリアーナに言う。
「にしても、今回の実技もレイモンドはすごかったな」
「う……」
顔をしかめるオリアーナ。実は、今回の実技テストも案の定悪目立ちしていた。対人戦が今回の課題だったのだが、オリアーナは体育会系教師と当たり一瞬にして勝利したのだ。
「あの脳筋ゴリラ教師を吹き飛ばすなんてマジすげぇわ。あんた前世は怪物とかだったんじゃないか?」
「まぁまぁ……。ケモ耳レイモンド様も、それはそれで素敵ですわ」
「ジュリエット嬢の萌えセンサーは見境ないのな」
もしかしたら本当に、前世は恐ろしい怪物か何かだったかもしれない。オリアーナが真剣に考えていると、セナが「真に受けることないから」と突っ込んだ。
何気ない日常のひとコマ。一同はすっかり昼食を楽しんでいた――そのとき。
『グァァァァァァァ!』
けたたましい咆哮が辺りに響き、建物が揺れる。
「地震か!?」
「いや違う。魔物だ! 感じねーのか、この気配!」
食堂内は大混乱だった。禍々しい気配を生徒たちは敏感に感じ取った。中には、その気配だけで気を失っている者もいる。
大窓の外には大きな黒い影。その刹那……。
――パリンッ……!
「危ない! ――リア!」
ガラスが割れて魔物が侵入してくるのと同時にセナに庇われる。セナはオリアーナを庇い抱き、片手で防御魔法を発動させる。ジュリエットとリヒャルドも、それぞれ魔法で対応する。
「リア、大丈夫か? 怪我は?」
「大丈夫。セナが守ってくれたから。あれは……」
バルコニーを破壊し、室内に侵入したのは緑がかった黒の粘液状の魔物。触手が動き回り、ぎょろっとした丸い目が体のあちこちで光っている。とてもおぞましい姿だ。
「不定形の魔物……」
「ランクは?」
「上級……いや、超上級かも」
セナの声はいつになく切羽詰まっていて。上級であれば、今のセナやジュリエットでも辛うじて戦えるかもしれない。しかし、目の前の敵は素人のオリアーナが見ても、今の自分たちで太刀打ちできる気がしない。
「オリアーナ様はわたくしが守りますわ! ――現れよ!」
ジュリエットは魔物を睨みつけながら指輪を外し、呪文を唱えた。赤い石の指輪は、杖に姿を変える。
「リヒャルド王子は早く皆様の避難誘導を。わたくしが時間を稼ぎますわ。セナ様、あなたは共闘してくださいまし」
「――分かった」
ジュリエットの判断に、一同は頷く。