【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
ジュリエットは杖を振りかざし、炎魔法で魔物に対抗する。オリアーナはリヒャルドとともに、生徒たちの避難誘導を始めた。
もうほとんどの生徒が脱出している。三階から一階まで階段を下りつつ、逃げ遅れた人がいないか確認する。
「オリアーナ嬢、あそこに人が」
「私に任せてください。王子は厨房の方を確認していただけますか?」
「了解」
オリアーナの視線の先で、女子生徒が倒れた棚の下敷きになっていた。その横で、友人と思しき女子が泣きながら下敷きになった生徒を引っ張り出そうとしている。彼女たちの元に駆け寄って声をかける。
「もう大丈夫です。手伝いましょう」
「……! 殿下……っ。この子が、レティシアが下敷きにって……。意識がなくって……っ」
レティシアという娘は、息はあるようだが、重量のある棚に敷かれているのでひどい怪我をしているかもしれない。まずは救出が先だ。
「レティシアさん、聞こえますか!」
呼びかけてもやはり反応はない。オリアーナは女子生徒が苦戦していた重い棚をいとも簡単に退かして、その隙にレティシアを救出させた。
床に寝かせたレティシアに、覚えたての治癒魔法をかけてやると、意識が戻った。
「ん……」
「よかった、気がついたね」
「!? で、殿下!?」
「うん。上階に魔物が現れて大変な騒ぎになっているんだ。立てる?」
「は、はい……なんとか」
オリアーナの手に支えられ、レティシアが立ち上がる。
「君たちはここから早くに逃げるんだ」
「はい……! ですが、殿下は?」
「僕は始祖五家の者としての務めを果たさなくてはならない。さぁ、お行き」
「分かりました。どうかお気をつけて」
オリアーナが頷き返すと、二人は早足で外に逃げて行った。まもなく、厨房を確認したリヒャルドが戻り、全員脱出したことを報告し合った。
二人は急いで三階に戻った。そして、目の前の光景に唖然とした。
天井は吹き飛ばされ、青空に晒されている。床は散乱していて、魔法がぶつかり合う音が響いている。
魔物は次々に下級魔物を生み出していた。セナが一人きりで交戦している後ろで、ジュリエットが血を流して倒れていた。
「ジュリエット……!?」
倒れているジュリエットの元に駆け寄り、彼女の身体を起こす。額から血が滴っていて、顔は真っ青。始祖五家の中でも戦闘に特化した彼女が、ここまでやられるとは。
「ひどい怪我だ。今治癒をかけるからね。――治癒」
「……うっ、オリアーナ、様……」
「喋らなくていい。身体に障る」
視線を上げて、戦闘中のセナを見た。刀身をひらめかせながら、次々に上級魔法を繰り出して、出現する下級魔物を殲滅している。
(セナ、こんなに強くなっていたんだ……)
それは、今まで見たことがない本気の戦いぶりだった。幼いころレイモンドやオリアーナに守られてばかりの泣き虫だった彼とは全く違う。
《――風よ》
リヒャルドが応戦し、セナが背を預ける。しかし、セナの方は魔力も体力も底を尽きていて、時折よろめいている。
(マズイな……。このままだと全員やられる)