【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
ぎりと奥歯を噛み締める。応援が到着するのはまだだろうか。額にたらりと汗が流れる。オリアーナは考えた。考えに考え、決断した。
戦っているセナとリヒャルドの隣まで行った。
「二人とも。ジュリエットを連れてここを離れるんだ。ここは私が引き受ける。このままでは全滅だ」
オリアーナは――魔法石が嵌め込まれた指輪を外した。この状況を打開するには、聖女の呼び笛で、あの魔物に対抗しうる幻獣を召喚するしかない。今の未熟なオリアーナでは、それらを支配しきれずに襲われてしまうかもしれない。
けれど、大切な友人たちを死なせるよりはずっとマシだ。オリアーナは苦しそうに倒れているジュリエットを一瞥して、下唇を噛んだ。
(早く彼女に適切な治療を受けさせなくては。せめて彼女だけでも……)
セナはオリアーナの考えを理解して、眉間に皺を寄せた。
「だめだリア。呼び笛は危険すぎる。まだお前の実力では扱いきれない」
「分かっているよ。でもこれが一番合理的だ」
「どこが――」
オリアーナはセナの言葉を遮って、リヒャルドに言った。
「リヒャルド王子。ジュリエットを頼んだよ」
「……分かった」
リヒャルドは弱々しく呼吸をしているジュリエットを見て、苦い顔をしながらオリアーナの言葉に応じた。
「嫌ですわ……っ。オリアーナ様を置いてなんて……っく」
リヒャルドに横抱きにされながら、ジュリエットはじたばたとあばれるが、怪我に響いて顔をしかめた。彼は泣き続けるジュリエットを強引に連れて逃げた。
セナは結局、オリアーナを置いて逃げてはくれなかった。彼は手をかざして防御魔法を張った。
「……私が何を言っても、君は残るんだね」
「当たり前だろ」
「死ぬかもしれないよ。私が召喚した幻獣に喰われて」
「お前が一緒なら本望だよ」
「本当に……馬鹿な人だ」
青い防壁の中で、オリアーナは唱えた。
《――現れよ》
指輪は聖女の呼び笛に姿を変えた。この呪文を唱えるのは二度目。入学式典のときと同じで、遠くから獣の声が聞こえる。オリアーナはためらいなく笛を強く吹く。
ピーーーーッ。甲高い音が響き渡ると同時に、七体の白い獣が召喚された。狼の姿をした優美な幻獣。
オリアーナは魔物を見据え、叫んだ。
「――邪悪を滅せよ」
直後、幻獣たちが下級魔物を一掃した。そして、粘液状の魔物に向かって走り、鋭い爪や牙で切り裂いていく。幻獣は壁を蹴り、跳躍を繰り返しながら魔物を攻撃した。まもなく、粘液状の魔物は討伐された。