【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜

「――ところで、本日は魔法の杖を現出させる儀式を行うそうですが、対策していらっしゃいますの?」
「うん、大丈夫」
「そう……なら、安心ですわ」

 そっと、左手の人差し指に着けている指輪を撫でる。透き通る金色の大きな魔法石が嵌め込まれた指輪は、魔道具としての機能があり、必要に応じて魔法の杖や空飛ぶほうき、戦闘用の武器に姿を変えさせることができる。

 生徒たちは、五つの属性の内、自分の適性の石を与えられ、常に指輪として身につけることを義務付けられている。
 そして入学式の今日は、オリエンテーションを兼ねて魔法石を杖に変形させる稽古を行う。

 杖というのは、使い手の魔力の性質によって多様な形を現すのだが――非魔力者に石を杖に変えることはできない。普通なら。



 ◇◇◇



「それでは皆さん、魔法石の指輪を用意していますね?」

 講堂に、クラスメイトたちは移動した。
 女教師マチルダが、教壇に立っている。彼女はふくよかな中年の女性で、高く伸びた鼻に、つり目がちな目で、尖った帽子を被っていて、さながら物語の魔女のような風貌をしている。

「皆さんには魔法石を杖に変化させてもらいます。このように――」

 指輪を外して手のひらに乗せ、呪文を唱える。


 《――現れよ(イマージ)!》


 すると、白い煙が立ち込めたのと同時に、木製の長い杖が現れた。その杖を構えて、更に詠唱する。


 《――風よ(ウィンド)


 その刹那、講堂の中に強い風が吹きすさび、生徒たちの身体の線を揺らした。マチルダの魔法属性は『風』だ。

「では、実践の前にもう一名、お手本を見せてもらいましょう。レイモンドさん。できますね」
「え……」

 彼女が指名したのはまさかのオリアーナだった。レイモンドは学院の首席合格者。この程度の魔法は本人なら朝飯前だろうが、ここにいるのは、非魔力者の双子の姉の方だ。
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