【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


 一方でレックスは、始祖五家と縁のある侯爵家の次男である。家格でいえば、オリアーナが格上だ。しかしオリアーナは生まれながら魔力を持たなかった。だから、身分は下だが魔力を持つレックスに見下されている。

 すると、レックスの後ろに隠れていた浮気相手の女が、こちらに駆け寄ってきてうっとりとした顔を浮かべた。

「素敵……!」
「え……」
「ねえレックス、この麗しい殿方は知り合いなの? こんなにかっこいい方を知ってるなら、早く言いなさいよ!」

 彼女はオリアーナの顔を覗き込みながら、上目がちに言った。レックスをそっちのけで。

「あの、今度一緒に食事に行きませんか?」

 裾を摘んで食い気味に迫ってくる彼女を、優しく引き剥がす。

「ごめん。誤解しているようだけど私――女なんだ」
「えっ」

 オリアーナは、子どものころから女子が好むものより男子が好むものの方が好きだった。

 スカートよりズボン。
 長い髪より短髪。
 刺繍や菓子作りよりも学問に武術。

 また、紳士的で男気がある内面は、その佇まいの貫禄を際立たせている。
 極めつけに、まるで作り物のような美貌。朝の陽の光を反射した稲穂のような金髪に、宝石よりも煌めく金目。筋の通った鼻梁に薄い唇。程よく鍛えた長身の体は引き締まっている。
 その容貌と振る舞いが相まって、大抵の者はオリアーナのことを男だと思う。そして、大抵の者が魅了されるのだ。

 オリアーナはまさに、物語から飛び出してきた『王子』そのものだった。

 今までも、レックスは何度も浮気をしてきた。しかし、浮気相手はオリアーナを一度見たらすぐに心変わりした。だから彼には、かなり恨まれている。

(あの顔、マズイな。レックス様……かなりご立腹の様子だ)

 顔を真っ赤にして震えているレックスを見て、オリアーナは額に汗を滲ませた。彼はこちらに歩いてきて、耳打ちする。

「……お前、気持ちが悪いんだよ。女のくせに男みたいで」

 オリアーナは、ごくんと固唾を飲んだ。

 それから――数日後。レックスはアーネル公爵家に、婚約解消を申し出るのだった。その理由は――オリアーナが『男前すぎて自分の立場がない』というなんとも情けないものだった。



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