【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
レックスから婚約解消され、両親は憤った。
「なんて情けない娘なの……! まだ婚約が決まって半年しか経ってないのに……! 我が家の面汚しだわ……」
「この役立たずが!」
――バシンッ。
父に頬を叩かれる。娘に対して全く手加減がない。衝撃で口の中を傷つけ、鉄の味が広がった。
「すみません。全て私の責任です」
婚約解消を申し出る書簡が届いたその日。日が暮れる前から朝日が昇るまで、応接間で説教を受けた。
カーテンの隙間から陽の光が差し込むのを見て、小さく息を吐く。
(もう朝日が出ている。……早く終わらないかな)
狩猟祭の日、もし見て見ぬ振りをしていたらこんなことにはならなかったかもしれない。けれどオリアーナはセナの名前を出すことはせず、全て自分が不甲斐ないせいだと折檻に耐えた。
オリアーナは女らしくなくて可愛げがないと言われて育った。また、始祖五家の子どもにも関わらず魔法が使えないこともあって、『出来損ない』という扱いだった。それでも、オリアーナはひねくれることもなく、優しく純粋なまま成長した。
「奥様、旦那様……っ、もうその辺りになさっては……」
顔にも体にも傷だらけのオリアーナを見て、メイドたちが夫婦に訴える。彼女たちは皆、オリアーナに憧れを抱いている娘たちだ。
「ふんっ、まだ許した訳じゃないからな!」
「よく反省しておきなさい! いいわね!」
「……申し訳ありません」
捨て台詞を吐き、懲罰用の鞭を投げ捨て部屋を出ていく両親。その場に倒れ込むオリアーナの元に、メイドたちが駆け寄る。
「オリアーナ様、しっかりなさってください……! すぐに手当てしますからね!」
「お水をお持ちしました」
メイドの一人からコップを受け取り、苦笑する。
「落ちこぼれの私に心をかけすぎると、君たちまで叱られてしまうよ」
「そんなこと、お気になさらないでください!」
「……ありがとう。優しいんだね」
「い、いえ……とんでもないです。優しいのは……オリアーナ様の方です」
ふっと微笑みかけると、彼女たちは恥ずかしそうに頬を赤く染める。
汗ばんだ髪も、憂いた表情も、色っぽくて麗しいオリアーナ。彼女の傷ついた姿さえ、メイドたちには魅力的に映った。
コップの水を、渇いた喉に流し込む。口の中を切っているのでひりひりと滲みる。空になったコップをメイドに預け、口元の血を袖で拭った。血が滲んだ袖を眺めながら、幼馴染のことを脳裏に思い浮かべる。
(こんなところ、セナにだけは絶対に見せられないな)
いつも味方でいてくれるのは、幼馴染のセナだった。
ずきずきと痛む身体を擦りながら、浮気していたレックスに対して本人よりも本気で怒ってくれた彼を思い出していた。