【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
藍色の妖艶な瞳に射抜かれ、なぜか心臓がどくんと音を立てる。朱に染った頬を見て、彼が意地悪に口角を持ち上げた。
「そうやってたまに照れるところとか。俺はすごい可愛いと思うけど」
「…………!」
可愛いなんて言われたのは、いつぶりだろうか。子どものころに周りの大人に言われたきりで、他に記憶にはない。昔からずっと、「格好いい」と言われることの方が多くて、女の子扱いされたことなんてほとんどなかった。
「可愛いなんて、そんなこと言ってくれるのはセナだけだよ。……レックスにも言われたんだ。お前は女らしくなくて、気持ちが悪いって」
確かに、女っぽい服装より、男っぽい服装の方が好きだ。趣味も普通の令嬢たちとは違うし、振る舞いが男性的であることも自覚している。でも実際は、誰も気づかないだけで少女らしい心も持っている。
レックスに気持ち悪いと言われたのは、流石に少し傷ついた。
するとセナが優しく頭を撫でてくれる。
「お前は可愛いよ。一番可愛い。俺はリアが自然体でいる姿が、魅力的だと思うよ」
「……そう、かな。ありがとう」
「困ったらいつでも俺に寄りかかっていいから。一人で抱えようとするな」
「……うん」
周りの人たちに頼りにされることはあっても、オリアーナ自身は何でも自分一人で何とかしようとして、誰かを頼ることはしなかった。
けれどセナは、そんな頑固なオリアーナに手を差し伸べてくれて、唯一頼りにできる相手だった。
(セナは、ずるい)
優しい言葉をかけられて、なんだか泣きそうになってしまった。彼だけは、オリアーナを女の子として甘やかしてくれる。オリアーナが好きなものを、それはそれでいいよねと受け入れてくれる。
するとセナが、オリアーナの耳元で囁いた。
「俺さ」
「何?」
「お前の婚約が解消して、よかったって思ってる……かも」
「……か、からかわないで」
赤くなった顔を逸らして、背を向けて歩き出すオリアーナ。
置いてけぼりにされたセナは、彼女の後ろ姿を見ながら、愛おしそうに口元を緩めたのだった。
◇◇◇
セナ・ティレスタムにとって、オリアーナは正義のヒーローだ。
素直で優しくて、誰よりも正義感が強く責任感がある。まっすぐな生き方を尊敬していたし、ひとりの女性としても好きだった。
オリアーナへの恋心を自覚したのは、もう随分昔のこと。幼いころ、幼馴染のオリアーナとレイモンドは親しくしていて、こっそり平民の子どもに扮して下町に遊びに行っていた。
「やーい女男ー!」
「こいつ、男のくせに女みたいな顔してやがるぜ。気持ち悪ぃ」
「ふふ、ちょっと。馬鹿にしちゃ可哀想よ。この子泣きそうじゃない」
ある日のことだった。オリアーナたち双子とはぐれてしまい、町の子どもたちに絡まれていじめられていた。当時、普通の子たちより成長が遅くて、背が低く華奢だったセナ。癖のないさらさらの髪も、大きくてまつ毛の長い瞳も、少女のように見えた。
セナは、体格のいい子どもたちに囲まれて怯えきっていた。