【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
机の上にでかでかと佇むオリアーナの彫像。滑らかな曲線を描いていて、細部まで精巧な作りをしており、高さが2メートル近くある巨大な作品。
しかも――チョコレートでできている。
「あら、お気に召しませんでした? こちら、うちの専属パティシエたちに一週間かけて作らせましたの。もちろん、レイモンド様がモデルですのよ?」
「パティシエに何させているんだよ。気に入るも何も……これ、どうしたらいいの?」
「普通に食べていただいて結構ですわ。ほら、あの小指のあたりとかどうです?」
そう言って躊躇なく彫像の小指を折る。欠けた小指を口に入れてこようとする彼女に、若干のサイコパスっぽさを感じる。
チョコレートとは言っても、自分の形をしたものを食べるのは、いささか躊躇われる。本当にどうしたものか。
チョコレートの彫刻の始末について頭を悩ませていると、教室の扉が乱暴に押し開かれた。
――バンッ。
「おいっ! このクラスで『殿下』って呼ばれてる奴はどいつだ!」
いかにも不機嫌そうに立っているのは、さらさらした深みのある銀髪に、ぱっちりとした紫の瞳をした青年――リヒャルド・ギーアスター。オリアーナも知っている相手だ。そして、できることなら相手にしたくない人物。面倒事の予感しかしない。
「殿下ならそこにいるよー」
シラを切るつもりが、親切な生徒があっさりと教えてこちらに指を指した。
「ああっ! やっぱりお前か! レイモンド! 生意気なヤツめ」
リヒャルドはつかつかとこちらに歩いてきて、机をバンッと音を立てて叩いた。
「お前ばっかりチヤホヤされてずるいぞ。なんでお前が俺を差し置いて殿下なんて呼ばれてるんだ。本物の王子は――俺なのに……!」
そう。彼はヴィルベル王国の第三王子。血筋から正真正銘の王子である。王家とアーネル公爵家はその成り立ちから縁が深く、リヒャルドとも面識はあった。リヒャルドは昔からレイモンドと親しく、やたらと張り合おうとしていた。オリアーナはというと、面識があるだけでほとんど親交はない。
今のところ、セナの認識制御の魔法の効果で、目の前にいるレイモンドの正体には気付いていないようだ。
「別にチヤホヤなんて……」
「とぼけるな! このプレゼントの山はどう言い訳するつもりなんだ?」
「ありがたいことだよね」
「そういう澄ました感じがますます気に入らないな」