【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
12_世界で一番素敵な人(2)
ジュリエットは、悩ましげな表情で廊下を歩いていた。
艶のある桃色の髪に、長いまつ毛が囲う瞳。その歩き姿は、誰もが息を飲むほど美しい。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は――燃えるような赤い薔薇に喩えられた。
そんな彼女が物憂げに歩く様子に視線が集まる。特に、男子生徒は惚けた顔を浮かべて、彼女に羨望を向けた。
始祖五家のひとつ、エドヴァール公爵家の令嬢という文句のつけようのない地位。
火魔法を操るずば抜けた才能。
圧倒的な怜悧な美貌。
ジュリエット・エドヴァールは、男女共に憧憬を集める、格式高く麗しい令嬢だ。
しかし。彼女の内心は荒れていた。
(どうしましょうどうしましょうどうしましょうどうしましょう〜〜〜〜! 麗しのオリアーナ様のお顔に……美しい瞳の下に――)
ジュリエットは立ち止まり、両手で顔を覆いながらすすり泣いた。
「クマが……っ」
そう。今朝オリアーナを見たとき、いつもは健康的な顔色がすこぶる悪く、滑らかな肌は荒れ、目の下にはくっきりとしたクマをこしらえていた。――完全に寝不足だ。
オリアーナを見た瞬間、ジュリエットは思わず教室を飛び出していた。――蒸したタオルを用意するために。
一刻も早く、彼女の目元を温め、血行の改善を計らなければ。医務室で仮眠を取るように懇願したが、オリアーナには拒まれてしまった。
ジュリエットの切なげな様子に、男子生徒たちがざわめく。