【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
「おい君。彼女はこう言っているよ。まだなにか持っているなら返すんだ」
「ひっ、もう何も盗ってないです……! 勘弁してください……っ」
ジュリエットはうっとりした顔で、両手を祈るように握った。
「盗まれたのは、わたくしの――心ですわっ!」
「は?」
彼女は虚を衝かれたような顔を浮かべた。一方、ジュリエットは蕩けそうな声で続けた。
「わたくしの心はもう完全にあなたのものです。わたくしはジュリエット・エドヴァール。麗しのレディー。あなたのお名前を教えてくださいまし」
スカートを摘んで片足を引き、淑女の礼を執る。すると彼女は驚いたように目を見開いた。
「……私のこと、男だと思ったんじゃないの?」
「え……男性でしたの?」
「いや、女で合ってるよ。この見た目だからよく、男と見違えられるんだ。女と分かった上で告白されたのは初めてだよ。ありがとう。すごく嬉しい」
彼女はくすりと微笑んだ。
「私は――オリアーナ・アーネル。こんな形で出会うなんて、ある意味運命かもね。始祖五家の可憐なお嬢さん」
「…………!」
(この方が、光の始祖五家、アーネル公爵家のご令嬢……)
オリアーナの名前は聞いたことがあった。アーネル公爵家の双子の姉の方で、非魔力者。天才といわれる魔法士が片割れで、何かと比べられて気の毒に思っていた。
しかしオリアーナは、そういう境遇でも全く卑屈さを感じさせず、快活で前向きな雰囲気だった。
これが、ジュリエットとオリアーナの出会いだった。親しくなるに連れて、彼女のことがもっともっと好きになっていった。
◇◇◇