【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
魔法の規模も威力も、全てが完璧。「さすがは始祖五家」と生徒たちはざわめいた。ジュリエットに続き、他の生徒たちも同じ魔法を唱えていく。各々の得意属性を生かし、八割くらいの生徒は成功させるが、誰一人としてジュリエットを上回る者はいなかった。
そして――オリアーナの番が回ってきた。生徒たちは、首席入学者で日々の成績も優秀な『レイモンド』が、どんな魔法を繰り出すのかと期待した。
オリアーナは、自分の力を源に杖を作り出すことを禁じられているため、また学校の備品のシンプルな杖で代用した。木製の杖を構え、ゆっくりと息を吐く。
(……やっぱり私に代わりを務めるのは無理だよ。早く、早く元気になってよ。……レイモンド)
今も部屋でひとり病気と戦っている弟のことを思い浮かべ、目を伏せる。
(みんなに祝福をお与えください)
ただ純粋な気持ちを込め、暖かい陽だまりに包まれるような感覚をイメージした。
《――光の祝福》
魔法は、扱う者が意図することで発動する。また、そのときの感情や思考も反映される。
オリアーナは、病床に伏せているレイモンドや、辛い思いをしている人たちに希望が届くように願った。
『承知したヨ! 主サマ!』
「へ?」
すると、心の声に対して返ってくるはずのない返事が返って来た。幼い子どものような声。視線を下に向けると、ひよこのぬいぐるみのようなメルヘンチックな見た目の謎の生き物がこちらを見上げた。
聖女の呼び笛は使用していないから、幻獣の類ではないことは確かだ。
「ぬいぐるみ……?」
『失礼な主さまダナ。僕は君の願いそのものだヨ』
やれやれと首を横に振った彼は、ふわりと宙に浮き、言った。
『病める者、貧困にあえぐ者、心身に傷を負う者、その全てに――希望を与えヨ!』
「…………!」
その生き物を中心として、光が外へ外へと広がっていく。閉め切っていた窓がガタガタと揺れたかと思えば、ばっと開け放たれて光が風と共に拡散する。――全て、とはどの程度の規模の話をしているのだろうか。
非魔力者のオリアーナにも、注がれる祝福の大きさが異常なものだということは分かった。
(なんて優しい光……)