【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜

 一方で自分は、魔法士として活躍する未来が保証されている。

 オリアーナは表には出さずとも、自分に魔力がないことを負い目に感じている。たまに、魔法を使うレイモンドを羨ましそうに見てくるのだ。

 レイモンドは、大好きな姉の背を追い続けていたかった。そして願わくば、自分の背中を彼女に預けて闘ってみたかった。その近くには、セナもいて……。そんな叶わない未来を夢に見ていた。


「おい見たか……? アーネル家の子息が魔物をたった一人で倒しちまったぞ……」
「まだたったの九つだそうだ。なんという逸材。これでアーネル公国の未来は安泰だな」


 戦場に着いたあと。それまで魔法士たちが悪戦苦闘していた魔物を一瞬で殲滅したレイモンド。それを目の当たりにした者たちは、皆感嘆した。

(姉さんが今ごろ心配しているはず。早く無事を伝えなくては)

 レイモンドは打ち上げには参加せず、姉のいる家に直帰した。まっすぐ家に帰る習慣はそのあともずっと続く。
 レイモンドはどんな賞賛を受けても、一切慢心せずに努力し続けた。姉の分まで頑張りたかったのだ。



 ◇◇◇



 ――数年後。

「おい! レイモンド! お前また上級魔物を一人で倒したらしいな。すげーなぁかっけぇなぁ!」
「近すぎます離れていただけますか? リヒャルド王子」
「そう釣れないこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?」
「別に僕はあなたと親しくなった覚えはありませんが」

 レイモンドは異常にリヒャルドに懐かれている。リヒャルドだけではない。天才と言われる小公爵に憧憬を抱く者は沢山いた。若くして活躍を認められ、すでにいくつもの勲章を与えられ、伯爵位を下賜されている。

(僕のことなんて見てくれなくたっていいんです。それより、姉さんのことを見てほしい。姉さんこそ、世に出るべき人だ)

 最近のオリアーナはというと、ようやくできた婚約者レックスに浮気されまくっている。あれは無礼でろくでもない男だ。オリアーナが男らしいせいで女として見られない、と社交界で言いふらしている。始祖五家の『出来損ない』の上に、可愛げがない無価値な女――だと。

 すぐにでも消し炭にしてやりたいところだが、オリアーナが我慢しているから口を出さないようにしている。

(セナが知ったら、許さないでしょうね)

 レイモンドはオリアーナの気持ちを汲んで我慢しているが、セナは違うだろう。彼はオリアーナと両親の間の確執を知らないから。

 セナはオリアーナを想っているが、タイミングが合わずにオリアーナと婚約を結ぶことができなかった。そのせいでオリアーナはろくでなし男と婚約を結ぶ羽目になった。

「なーなー、どうしたらお前みたいに強くなれる?」
「……」
「おい。黙ってねーで教えてくれよ!」
「……」

 姉のことを考えていたら、リヒャルドに体を揺すられた。たまたま王宮で遭遇したのが運の尽きだった。あしらってもしつこくまとわりついてくる彼にレイモンドは観念することに。
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