【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


「しつこい人ですね、あなたも。分かりましたよ。少しなら付き合って差し上げます」
「本当か!?」
「昼までですよ。午後は姉さんと剣の稽古があるので」
「姉? ああ、あの『出来損ない』の」
「出来損ない?」
「あっ、いや……すまない」

 レイモンドは『出来損ない』の言葉に反応し、眉をひそめた。

「……よく噂を聞くよ。お前と双子なのに、魔法が使えなくて、可愛げがないって」

 それを弟に言うのは配慮に欠けていると思う。本人はあまり悪気がないようだが。

「姉さんは出来損ないなんかじゃありません。剣の腕なら、僕よりずっと上です」
「は、お前より!?」
「それに……姉さんは可愛らしいですよ。世界で一番ね」
「世界で一番」

 彼女は男のような服装を好んでいる。スカートや可愛らしい宝飾品を身につけるのは、気恥しいそうだ。けれど、オリアーナが女らしい服装をしたときは、どんな美女と噂される人たちにだって負けない。
 本人は自分の魅力に気づいてはいないが、オリアーナは可愛い。

 それからレイモンドは、リヒャルドと魔法を使った一対一の試合をした。結果は秒殺。リヒャルドは為す術なく地に伏していた。しかし彼に悔しさのようなものは一切なく、むしろ嬉しそうな様子。

「ふおおおおおお!」

(ふお……?)

 感激に打ち震えながら、きらきらと瞳を輝かせて飛びついてくるリヒャルド。レイモンドにやられてボロボロになった彼の体を受け止める。

「お前、超つえーな! すげー!」
「わ、分かりましたから少し落ち着いてください。近いです」

 負けておいて喜ぶなんて、おかしな人だ。でも不思議と嫌いではない。ざっくばらんで純粋。思惑が交錯する上流階級の中では、こういう素直さを持つ者は少ないので、物珍しさがある。

(やれやれ……厄介な人に懐かれてしまいましたね)

 二人は修練場の片隅にあるベンチに座って取るに足らない話をした。

「それで姉さんは――」
「――と言えば昔、姉さんが―」

 しかし、レイモンドが口にするのはオリアーナのことばかり。

「お前……実はすげーシスコンなんだな。さっきから俺、お前の姉さんのプレゼンしかされてないんだけど……」
「姉さんの魅力は語り尽くせるものではありません」
「ほらシスコン」
「姉さんはすごい人なんです。勉強も、運動も武術も、何をとっても僕より優秀で、誰にでも分け隔てなく優しい。人格も素晴らしいんです。……本当は、僕ではなく姉さんこそ魔力を持つにふさわしかったでしょう」

 レイモンドは、魔法学院という名門学校に首席で合格した。しかし、魔力のないオリアーナには受験する資格さえなかった。彼女だって本当はもっと学びたいことがあっただろう。
 彼女が非魔力者なのを負い目に感じているように、レイモンドは姉を差し置いて自分だけが魔法の力に恵まれていることを申し訳なく思っていた。

「それは違うだろ。お前の力は……お前にふさわしいから与えられたんだ」
「なぜそのように言い切れるのですか」
「俺には――精霊が見えるからって言ったら……信じるか?」

 リヒャルドは真剣な表情でそう言った。

「精霊は目に見えないだけで、あらゆるものに宿ってる。花に草木、馬や虫なんかにも。人もそうだ。特に霊格が高い人間を精霊たちは好む。お前の周りには精霊がよく集まってる」

 レイモンドには霊感の類いは一切ない。精霊に好かれていると言われても、ちっとも実感が湧かない。

「俺が今まで出会った中で、お前は二番目に精霊の加護を受けてる」
「一番目……というのは」
「現聖女だ。お前の魔力はどこか聖女の神聖さに似ている。レイモンドが偉大な力を持つ器に選ばれている証だ。だから自分を卑下すんな」
「……そう、ですね」

 このときはなんとなく聞いていた話だったが、この『聖女の神聖さに似た魔力』とは、オリアーナが持つべきものだったと後に分かる。
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