【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
何度も医者に診てもらったことはあった。しかしまだ、魔力核の分野は研究が進んでおらず、診断を付けられる医者にも出会えなかった。病気の原因に関しても、あくまで自分の推測でしかない。すると、セナは飄々とした様子で言った。
「移植を成功させた前例があると言ったら?」
「え……」
「お前の症状の原因は薄々気づいてた。俺も色々調べたんだ」
現代の魔法医学で、この病気を治療する方法は確立していないはず。レイモンドも可能な限り文献を読み尽くしたが、ただでさえ症例が少なく、そんなデータは一つも見なかった。ぐっと喉を鳴らし、彼の言葉の続きを待つ。
「俺が読んだのは、三代前の聖女の日誌だ」
「――聖女の日誌?」
レイモンドが尋ねると、セナは神殿から持ち出してきた当時の日誌を手に取りながら、説明を始めた。
人の意識の根源が魂であるように、魔力を生み出す源は魔力核と呼ばれる。魔力核も魂と同じで目で見ることはできないエネルギーの塊。
人間がそれらを移動させることはできないが――精霊には可能だという。
聖女の日誌にはこう書かれていた。あるとき、池で溺れて瀕死になった二人の子どもがいて、一人の魔力核がもう一人の体内に入り込んでしまった。魔力核を失った子どもは魔法が使えなくなった。一方、魔力核を体内に有した子どもは、本来の倍の魔力を行使できたが、『身体の内側で何かが暴れている』と言うようになり、苦しむようになった。
(僕の症状と同じ……)
当時の聖女は、その子どもの体調不良の原因が魔力核によるものだと見抜き、精霊に元の子どもの体に核を戻すように依頼して成功させた。この国で、精霊を含めた人ならざる者と意思疎通し、従えることができるのは聖女たった一人である。
セナから話を聞いたレイモンドの手は震えていた。
「信じられません。過去にそのような事例があったなんて。よくその日誌を見つけましたね」
「これもまた導きだろうな。神殿に手がかりを探しに行ったら、棚からその日誌が落ちてきたんだ」
そしてセナが、一呼吸置いてから言う。
「今日、エトヴィン先生の他に――現聖女様もお呼びしてるから」
「…………!」
◇◇◇
アーネル公爵邸に先に到着したのは、エトヴィンだった。ちょうど昼頃に来訪し、オリアーナが出迎える。エトヴィンは、制服ではなく私服でも男のような格好をしているオリアーナを見て不思議そうにした。
「お前、家の中でも男装してるのか?」
「はい。スカートは子どものころから苦手で。こっちの方が動きやすくて楽なんです」
「まぁ、自分に合った格好が一番だな」
懐疑的に見られるかと思いきや、意外とエトヴィンは寛容だった。私服でも無駄にキラキラとしたオーラを放っているオリアーナに、エトヴィンは太陽でも見たかのように目を眇める。
オリアーナは踵を返した。
「弟の部屋にご案内いたします。こちらへどうぞ」
「ああ」
エントランスから螺旋階段を上り、二階のレイモンドの部屋に行った。室内から、レイモンドとセナの話し声がかすかに漏れ聞こえる。